そんなわけで原作には全くといっていいほどよい思い出はない。それはさておきこの映画、まずは60〜70年代の外国作品を想起させる古いタイプの映画であることに驚いたのだが、鑑賞後はこの物語の映画化としてはそれは必然であったのだと思い直すことにした。そのあたりは役者の演技に関しても同様である。その所以は、きわめて現代的なつくりの日本映画の中にあの台詞まわしが展開したとすれば、それはそれで独特の世界観が生まれたとは思うが、その世界観は原作者の思い描くものとはひどく異なるものになったに違いないと思うからである。その意味でこの映画で最も素晴らしかったのは、そういった古いタイプの映画に違和感なくその存在感を示した水原希子の起用であったと私は思っているし、そんな彼女の登場シーンを中心として、その物語が面白いか面白くないかは別として、『ノルウェイの森』という作品の映画化としては本作はそれなりに健闘したというのが私なりの結論である。

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それでもさすがにワタナベくんのあの着衣フェチぶりには驚いた。別に菊地凛子や霧島れいかの裸が見たかったわけではないけれど、あれはやはり不自然だろう。テレビ局が制作者側にまわるとやはりそのあたりの制限は厳しくなるということか。

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ちなみにこの映画、「劇場公開版」と「エクステンデッド版」との両方を観たのだが、驚いたのは、これらが全くの別物と言っていい作品であったことである。聞くところによると先に完成したのは「エクステンデッド版」のほうだったそうだが、上映時間等の関係で短くせざるを得なかったそうだ。それに際し、単なる短縮版を作るのではなく、全くの別物をこしらえて「劇場公開版」としたトラン・アン・ユンの作家魂にも（それが成功であったかどうかは別として）敬意を表しておきたい。個人的な好みとしてはオリジナルである「エクステンデッド版」のほうを強く推すのではあるが…。