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[コメント] エル ELLE(2016/仏)

素晴らしい側面があることは理解しながらも、素直に肯定できない。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







画としての見せ方には面白いものを感じた。特に音から始まり、猫のアップになり、女性が暴漢に襲われながらもやがて抵抗を止め、事を成した男が静かに立ち去ると、女性のほうもそれが通常のたしなみであるかのごとく静かに起き上がり、まるで取り乱す様子もなく壊れた食器を片付け、風呂に入ると鮮血が浮かぶというファースト・シークエンスは、その後に明かされていく主人公の人間としての危うさが十二分に表されていたし、ガラスの扉に囲まれた自宅という舞台も、彼女がいつまた襲われるのだろうというサスペンス演出の小道具として素晴らしい働きをしていたと思う。

またイザベル・ユペールも本当に素晴らしかった。例えば今の日本で考えると、彼女と同年代の女優というと松坂慶子竹下景子といった人たちがその代表格と挙げられるようだが、今の彼女たちにあんな役がやれるかというと正直難しいと思う。けれどそれがイザベルであれば物語上はもちろん、画的にも違和感なく見ていられるのだから、これはもう単純にすごいというしかなかった。また、これだけのベテランでありながら、いまだにいい意味で安心して見ていられないこの演技の振り幅にはただただ驚くばかりであった。

がしかしこの作品、それだけの素晴らしい側面があることは理解しながらも、素直に肯定できないのもまた事実なのである。劇中にもイザベルの自慰行為という衝撃的な場面があったが、作品的にもその域をこえないまま終幕となってしまったという印象が強い。そこがすごく残念であった。

例えば、彼女の理解しがたい嗜好性が過激に描かれれば描かれるほど生理的に耐えられなくなり、映画としての興味が削がれてしまうところはある意味「バーホーベン何も変わってないじゃん」と思ってしまうし、暴行犯が想定内なのはよいとしても、そこから先の特に地下のボイラー室のシーンなどには、その関係の異常さがもっともっと際立つほどの何かが欲しかった。。。というのは欲というものだろうか。

***

余談だが、息子の嫁を演じた役者さんが若い頃のイザベル・アジャーニに似ていたのにはちょっと驚いた。彼女はなかなかの好演をしていたので、これからもちょっとチェックしてみたい。

(評価:★3)

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