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[コメント] 1917 命をかけた伝令(2019/英=米)

サム・メンデスは、やはり英国の舞台演出家だ。彼の演出には、常に舞台的な香りが漂いそれが独特の違和感として残る。例えばこの物語にしてもそこに汗を感じるかといえばどうか?ゼロだ。戦場の部隊の匂いよりもむしろ戦場が題材の舞台の香りがするのだ。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







確かに巻頭からの二人旅は面白かった。バディっぽくもありつつ、けれども微妙な距離感のある二人が任務を遂行しなければならない中で見えない敵と戦う緊張感。映画としての純粋な楽しさに溢れる、見事な出だしだった。

が、敵の存在が視認できてからは、かえって緊張感が薄れ、ウィル(ジョージ・マッケイ)の一人旅となってから起こる様々な出来事や突然の舞台転換にははっきりとした違和感を覚えた。

例えば気絶から目覚めたあとの夜のシーンは、照明弾と建物が織りなす光と影の美しさ、銃弾から逃れるために疾走するウィルを追うカメラの躍動感には唸るし、ここだけは本当にワンカットであるべき力、必要性を感じる素晴らしい画面設計ではあるけれども、物語としてのそれまでの流れから考えると、単純に夜のシーンを入れたかっただけのように思えてしまった。

また、フランス女との遭遇にしても、それが女であったこと以外にあまり意味を感じず、ある種の不自然さばかりが目につき、今一つ乗り切れない消化不良のようなものを感じたりもした。

実をいうと、そういう映画的都合のような不自然さは、個人的には決して嫌いではない。だが、ワンカット風などという手法を用いてリアルさにこだわった作りをしたようなことを言いながら、そういう展開にもっていくのはどこか違うんじゃないかというかという思いがどうにも拭いきれなかったのは事実だ。何というか、そういうことをしたいのなら、最初からワンカットになどこだわらず、カットを割って自由に時間軸を往来するなどすればよいだけじゃないかと思ってしまうのだ。

結果、ラストの締めの不必要なまでの美しさもむしろ気になってしまうものとなった。あのウィルとトムの兄であるブレイク中尉との握手の手。あれだけの苦労をして命からがらたどり着いたウィルよりも、ブレイク中尉の手のほうがはるかに汚れ、無骨で、ウィルの体験などは、まだまだ地獄の入り口のようなものだったのだなと思わせるような細やかさ。恐ろしさ。戦場を描いた作品でありながらのこの繊細さ。

確かによくできている。場面々々は素晴らしいとは思うのだ。しかし自分にはそこに「よく出来ているでしょ? 素晴らしいでしょ?」という、理知的で計算が得意な舞台演出家・サム・メンデスの素顔が見えて、どうにも乗り切れないのだ。

(評価:★3)

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