[コメント] ミツバチのささやき(1972/スペイン)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
◇冒頭、トラックに揺られて映画がやってきたとき、はしゃいだ子どもたちが発する「映画の缶詰だ!」という台詞がいい。でも、この映画を初めて観た20年前には、「映画の箱」からDVDなるものを取り出して自室のパソコンで映画を観るなんて夢にも思わなかったけれど。
◇さり気なく、しかしワンカットで印象的に挿入される汽車の到着のシーンに、エリセが愛してやまない映画そのものへのオマージュを感じて感動した。「素晴らしい映画作家の条件は汽車がうまく撮れること」と言ったのは誰だったか。
◇オルゴールつきの懐中時計がいい。この小物と視線の動きだけで小屋に通っていたのはアナだったことをフェルナンドが知ったと分からせるシーンはいつ観ても興奮する。
◇興奮するといえば、小屋の前の足跡ひとつで恐怖感を表すシーンも素晴らしい。間に挟まれる空疎な畑のショットが効いている。
◇光と影。室内シーンの自然光の美しさ。様々な空の色。フェルナンドがベッドに入るのを影で表現したシーン。姉妹の手がつくる影絵。ゾクゾクする美しさだった。
◇姉妹が小屋へと走っていくロングショット。木々の中をキノコ採りに出かける父娘。素直に「この映画に出会えてよかったな」と思ってしまった。
◇シンプルな音色の音楽。そして水の音。風の音。フィルムが回る音。汽車の音…。それらの音の数々の魅惑的なこと。
◇火。例えばロウソクの火。その元で姉妹がヒソヒソ話をするシーンの神秘的なこと。あるいは焚き火。それを飛ぶ少女たち。そしてまたテレサの手によって燃やされる手紙。ここまでくるともうため息しか出ない。
◇最後に、言うまでもなくイザベルとアナの姉妹。最初はアナの瞳に、そして観るたびにイザベルの魔性に心奪われるのは何故なんだろう。
***
そのほかにもまだまだささやき足らないことはいっぱいあるのだろうけれど、どうやら際限がないようだ。
終幕近くの医者の台詞に「少しずつ忘れていく」というものがあったが、これは逆にいつまでも「忘れていく」ことがない映画。
それどころか、むしろ歳を重ねるごとにその印象が強まっていく、とにかく素晴らしいとしか言いようがない映画。
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