[コメント] 愛のメモリー(1976/米)
この世の中にはデ・パルマと聞いただけで妙にいらだったり、ため息をつきたくなるという症状に陥るという人の方がはるかに多いようだが、その逆にデ・パルマと聞いただけで意味もなくニヤニヤしたりドキドキしたりしてしまうという特異な人種も確かに存在する。言うまでもなく私がそうである。
初期の作品である今作は、のちの作品には欠かせなくなる様々な技巧がこの頃からすでに施されていることを確認するための映画として彼のライフワークの中でも重要な作品であり、彼の作品が合うか合わないかの判定剤としても適当であるように思う。
ヒッチコック作品をベースにしたストーリーや音楽(音響効果)。夢の(ような)シーン。360度パン。何の意味もない思わせぶりなシーンや、全然意外じゃない終盤までの展開。そして、それまでのヘタヘタ演出は何だったんだと思ってしまうような見事なクライマックス等々、やがてはお馴染みとなる(というか、それしかないのだが)デ・パルマ・カットのオンパレードで、良くも悪くもこの人が変わらない信念(もうそう言い切ってしまってもいいだろう)の持ち主であることもこの作品からはよくわかる。
いろいろなことがやたらと丁寧に描かれる序盤は、音楽ばかりが耳につく。これは裏を返せばろくな画面演出ができていないということになるのだろうが、これがやたら性急な展開となる終盤にはほとんど耳につかなくなるばかりか、場面によっては(今まで何度も騙されてきた展開であるにも関わらず)心底ドキドキしてしまうようになるのだから困ってしまう。こうなってしまうともうトータルな評価なんてどうでもよくなってしまい、私の魂は彼の手に落ちたも同然である。
コメント欄に掲げたのはタイトルと同名のヒット曲の一部なのだが、この歌詞のように今や彼の存在は、私の人生においてかぎりない喜びや胸のときめきを与えてくれる大切なものとなっている。そしてまた彼は、この世で大切なのは映画というものと(彼なりのやり方で)愛し合うことだけなのだといつも私に教えてくれているのである。
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