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[コメント] 恋のエチュード(1971/仏)

文字(アルファベット)。ゴダールの場合/デザイン。機能美。映像を斬る鋭いスラッシュ。異化効果。トリュフォーの場合/愛の物語を語り継ぐ琥惑の扉。文学の基礎として、かけがいのないもの。そして、『恋のエチュード』の場合は、更に特殊で、(以下、続きます。)
いくけん

映画の冒頭、原作本の表紙。原題のアルファベットが映る。その白い余白に、ジャン・ピエール・レオキム・マーカムステイシー・テンダーの役者名のクレジット(アルファベット)が重なる。原作者の自伝的要素の多い、この静謐(せいひつ)な愛の物語に、彼らが溶け込み、登場人物の思いと一体となれと、トリュフォー監督が冒頭のアルファベットで、念じているかのようだ。事実、見事な仕上がり。物語の汀(みぎわ)に陶然と、たゆたう我々。ヌーベル・ヴァーグの支柱なれど、トリュフォーは悲恋の物語性に抗(あらが)えない。愛される所以でもある。

モノローグ、手紙の朗読、早い展開。ネストール・アルメンドロスの奇跡のような繊細な撮影の残像が、この早い展開の物語に遅行して、追いついていく感覚。いままでにない快感。

何度、観直しても、芳醇なワインを飲んだかのような、酸味のともなった甘い後味がする。香りがする。名作とは、これ。名画とは、これ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)shiono よだか ルッコラ ゑぎ[*]

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