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[コメント] メトロポリス(1927/独)

ブエノスアイレスで発見された短縮前の16ミリ素材を組み込んだ2010年版、現在最もオリジナルに近い150分バージョンを鑑賞。
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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グリフィス式カットバック、エイゼンシュタイン式モンタージュ。見事に戯画化された未来都市。物理的な高低差で描く階級の格差。社会正義に目覚めるブルジョアバカ息子。「YOSHIWARA」という名の夜の歓楽街。鏡合わせの聖女と魔女。マッドサイエンティストの人造人間。亡き母親を巡るメロドラマ。幻想を平気で絵にするドイツ表現主義。狂ったモブの階級闘争。クライマックスは格闘アクションと「ノートルダムのせむし男」。主人公の名前がフレーダー・フレーダーセンという、富野由悠季みたいなネーミング。ライラ・ミラ・ライラ。

テッテ的な満漢全席で圧倒されるばかりなんだが、不満もある。「頭脳と手の媒介者は心」というのはあまりにも子供だましだ。資本家も労働者も同じ人間、握手してなかよくしましょうってか、ペッペッ。ふざけるんじゃあないよ、だったらこの地獄のような格差は何なんだよ。あんな資本家は息子がブッ殺さなきゃあダメなんだ。火あぶりにかけるべきは資本家だ。掟破りの下剋上なのだ。自由革命ばんざーい!

それから時計の針を電球の光に合わせる仕事、ありゃいったい何なんだ。オレは少年の日に初めて観た『メトロポリス』がジョルジオ・モロダー版で、その時もこの仕事何だろうなーと思っていたのだ。150分版を観ても判らなかったな。

この映画が後世に与えた影響は語り尽くせないが、とりあえず9年後の『モダン・タイムス』には絶大な影響を与えている。6年後の『キング・コング』にも影響ありと言いたいところだが、これは『メトロポリス』同様「ノートルダムのせむし男」が源流のひとつであろうから、兄弟みたいなもんだ。これはヴィクトル・ユーゴー先生が偉かった。我々世代が驚愕した『ブレードランナー』のLAだって、『メトロポリス』まんまだからな。「YOSHIWARA」が「わかもと」になってるだけだ。

ドイツらしいなあ、と感心するところもあった。主人公の親父(資本家)、普通ならこの役にはだらしない肥満体をキャスティングしたくなるところだよな。資本主義の豚だからな。それがシュッとしたロマンスグレイ。仕事に厳しい、厳格な経営者。このへんマンガじゃねえんだという矜持を感じたな。いやマンガでも全然いいんだけどな。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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