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[コメント] 宇宙戦争(2005/米)

スピルバーグの怪獣映画、アメリカ人の「疎開」。それは本多猪四郎が51年前に通った道。
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







日常があります。異変があります。でかい何かを目撃します。破壊があります。逃げます。この映画の前半は、非の打ち所の無い怪獣映画だ。もうねえ、オレなんかコーフンするわけですよ。樋口真嗣は地団太を踏んで悔しがるかもしれない。

スピルバーグはやはり根っからパニック演出がうまい人だ。逃げる一家の車中の会話を様々なアングルに移ろいつつ捉えたカットが素晴らしい。動けない車が点在する道路を猛スピードですり抜けるという日常ではありえない異常な状況、家族の会話も危なっかしく、ダコタはなんかの発作を起こし、トム・クルーズは息子の問いに答えられない。ああ、なんでこんな目にあうんだろう。ああ、どうしてこんなことになっちゃうんだろう。

ティム・ロビンス登場あたりから、この映画は失速した(近年のスピルバーグ映画は必ず途中で失速するのだが)。三本足の触手が忍び込んできて3人が隠れまわる「ドリフ大爆笑」のコントのような場面を見ながら、オレはああそうかこれH・G・ウェルズの『宇宙戦争』だっけ、宇宙人はバクテリアにやられるんだったな、などといらんことを考えてしまった。そしてその時点でオレは願ってしまった、これ『宇宙戦争』でなくていい。バクテリアなんかいらない。宇宙人も登場しなくていい。この3人は三本足にやられてそれっきりでいい。どこもかしこも焼け野原になって、炎に照らされた無数の三本足が巨神兵よろしくはるか地平線を歩いていく。生き残ったトム・クルーズの息子が泣きながら「ちくしょう、ちくしょう」「ちくしょう、ちくしょう」とつぶやく。オレは世界の終わりを見たいんだ。暴力の行き着く果てが殺人ならば、殺人を60億倍した人類の滅亡を見たいんだと気づいてしまった。原作なんかどうでもいいからスピルバーグ先生やっちゃってください、と願った。しかしよく考えたら当然なんだけど、これやっぱり『宇宙戦争』だった。

スピルバーグの真意は知らないが、またしても彼は最後まで自分の唄を唄いきらなかった、とオレには思えた。「いやいやこれ最初っからウェルズ先生の『宇宙戦争』ですがな」、うん確かにその通りなんだけど、この映画の前半、嬉々として銀幕に暴力を叩きつけていたスピルバーグは思いっきり自分の唄を唄っているようにオレには見えたんだ。暴力というものは行き過ぎたり規模が大きくなりすぎると、戦争とか虐殺とか災害とか呼ばれるようになってそれは確かにそうなんだけど、エスカレートの過程で「暴力」という言葉が本来持つ生々しさがどこか失われてしまう。よその世界の出来事のように思えてしまう。スピルバーグは暴力の怖さと生々しさを失わず、それが自分の身に起こっているというリアリティーを失わずに、でっかいでっかい世界規模の暴力をまざまざと「見せる」ことのできる監督だ。ダコタちゃんでなくても、指に刺さったトゲを触られるのはいやだよ。痛いもんな。その痛みが何十倍、何百倍、何千倍何万倍何億倍にもエスカレートしたらどうなるか、そんな怖い怖い映画になると思ったんだがなあ。違ってた。

最後にひとつ気になったことを書くならば、ダコタちゃんは結局オシッコできたのか。いや、別に劇中でダコタちゃんにオシッコさせろとかそういうことじゃなくて、紙がないとウンコもできないとか、そういう疎開ならではの地味な苦労を描いてもよかったんではないかとそんなような意味だからな! 車でダコタちゃんがオシッコしたいと言ったとき、そうだトイレットペーパー持ってきたっけと思ってハッとしたんだよ! べべ別に違う意味でハッとしたんじゃないからな! ヘンな目で見るな! ヘンな目で見るなって!

(評価:★3)

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