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[コメント] 蜘蛛巣城(1957/日)

冒頭からラストまで完璧である。だがしかし、オレが三船なら黒澤にこう言うだろう。「殺す気か!」
ペンクロフ

シェイクスピアの翻案のくせに、この映画はなぜか能の影響を色濃く受けている。

能は極端に限定された舞台で、極限までディティールを削ぎ落とした形で観客の想像力を刺激するストイックな世界。役者の表情すら能面に隠すのだから徹底している。たとえば「旅をした」という描写は、能においては狭い舞台を役者が一周するだけで表現される。余計なものを省いているからこそ、役者の小さな所作のひとつひとつが大きな意味を持ってくる。これは極めて日本的な発想である。

何度か能を観た事があるけど、ああ見えて極めてテンションの高い演劇なんです。巡業の中で芸を磨く大衆演劇・歌舞伎をプロレスにたとえるならば、能はボクシングの世界戦にも似た一発勝負の緊張感に満ちていて、目をそらすどころかまばたきも出来ないほど。実際、能の役者はただ摺り足で歩くだけの芝居でも、もの凄く体力を消耗しているらしい。その緊張感はこの『蜘蛛巣城』にもビンビン感じられた。

能の凄さを自分の映画に取り込んでみせた黒澤明。こういうジャンルを越えた試みをやらかす映画が、もっとたくさんあってもいいと思う。日本の古典芸能は、ある意味で宝の山なのだから。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (17 人)ペペロンチーノ[*] もがみがわ づん[*] yasuyon 荒馬大介[*] 山本美容室[*] シーチキン[*] トシ Pino☆[*] ジョー・チップ[*] chokobo[*] 緑雨[*] マッツァ[*] いくけん ジャイアント白田 あき♪[*] tredair[*]

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