[コメント] 二十四の瞳(1954/日)
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オレは香川県の出身で、小豆島に行ったこともある。正直言うてねえ、どうっちゅうこともない、しょうもない島ですよ。しかしこの映画の小豆島は、ため息が出るほど美しい。木下恵介の目と凡人オレ様ちゃんの目のデキが、それくらい違うってことなんだろう。
のんびりとした美しい島でのんびりと始まる、のんびりとしたお話。ところが年月は加速度的に過ぎ去ってゆく。瀬戸内海には大きな船が行き来するようになり、戦争が始まって終わり、乗合の車は立派なバスになる。高峰秀子も年とってヨタヨタとしてくる。子供たちはあっという間に成長し、戦死したり失明したりして大人になってしまう。
描かれるのは目まぐるしく変化する時代と、時代に対して無力な大石先生だ。大石先生は、何かを解決することがない。大石先生ができることは、ただ一緒に泣いてくれることだけだ。ハッキリ言って何の役にも立たない先生なんだけど、それこそが実はメチャクチャ尊いことなんだ、とする映画である。理でも義でも志でもなく、時代が流れる中で忘れ去られてゆく「情」をかけがえのないものとして大事に大事に拾い上げ、キラキラした美しいものとして描いた映画だ。
これはわたくしの目には、かなり異色の作品と見受けられた。しかし木下恵介の気合の入り方は尋常ではなく、例えば金毘羅さんの食堂でマッちゃんと邂逅する場面、そして去りゆく船を涙ながらに歩きつつ見送るマッちゃんの場面なんか、ちょっと観たことがないほどの凄まじいクォリティだ。もうこれしかないんだという、鬼気迫る撮り方をしている。1954年の作品ということで言えば圧倒的に『ゴジラ』や『七人の侍』の方が好きなわたくしも、この風格、この叙情は本物、イッツリアルディールであると思わざるを得ないのであった。
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