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[コメント] パラサイト 半地下の家族(2019/韓国)

「金」というフィクションが人類を苦しめる
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







金銭とは人類史上最大の八百長であり、人より金に価値を置く資本主義とは人類への侮辱に他ならない。「お前だって資本主義の経済の中で恩恵を受けているではないか、文句言うな」と言うやつは金の奴隷なのさ。恩恵を受けようが受けまいが資本主義が間違っている事実は揺るがない。人類は繁栄のために間違ったコースを選んだのであって、繁栄してるから正しいとはならぬ。金がないなんてくだらないことで人間さまが苦しむ必要は一切ないんだ、なのに現実はメチャクチャ苦しめられているんだ。

この映画を観る前は、たぶん藤子不二雄A「魔太郎がくる!!」や荒木飛呂彦「魔少年ビーティー」の一挿話のような「家族侵略乗っ取りもの」かと思っていたのだ。しかし映画を観て連想したのは、福本伸行「銀と金」のカムイ編だった。金にのみ価値を置く金の奴隷たちが王侯貴族のように振る舞い、他者を奴隷にし差別し踏みつけにする社会への怒りに満ちた傑作である。「銀と金」というマンガは資本主義のルールを悪用して資産家から金をさらうことで資本主義への異議申し立てとする奇抜な作品だった。それにしても「銀と金」が描かれたバブル崩壊後の90年代には、持たざる者が知恵と勇気を絞って一発逆転、大金持ちから財産を掻っさらうという夢がまだギリギリ、絵のド下手な福本マンガの中でなら辛うじてリアリティを持っていられたのである。森田鉄雄は、銀さんは、今どこで何をしてるのだろうか。会いたいぜ。

しかるに炭鉱のカナリヤたる世界の映画作家たちが経済格差をテーマにせざるを得ない現代はどうだ。貧民は死ぬまで貧民だ。90年代に見た大逆転の夢は消え失せた。60年代の植木等なんかファンタジー。我々が生きる現代は、かつてチャールズ・チャップリンが描いたルンペンの世界に極めて近いものだ。『犬の生活』なのだ。そりゃあ時代が違うから、貧困描写も違います。サムスン持ってるけどWi-Fi泥棒。ピザの箱を折る内職やってるけどピザの出前をとる金もない。文書偽造スキルがあってもパソコンないからネカフェで難民。我々チャップリンが寒空の下で震えているのに丘の上の豪邸でガキンチョ甘やかしてる富裕層は、まあ別に悪いこともしてないし悪意もないし悪気がないのも判るんだが、それでも刺されてやむなしブルジョワジーの一員なんだよな。それなのにこいつらときたら、半地下と深地下で貧乏人同士がくんずほぐれつしてるんだからどこまでも救いようがない浮世のカラクリだ。映画の出来栄えは、SFやらないときは冴えてるポン・ジュノさんのいつものクソ面白いやつでした。

(評価:★4)

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