冒頭の「寅の夢」で、寅はマドロス「マカオの寅」に扮してさくらを救う。帝釈天の境内では、子供がライダーごっこをしている（今作は「仮面ライダー」放送期間中に公開）。そこに母親がやってきて、「寅さんみたいになっちゃうよ」と叱る。とらや一同が、寅の結婚相手を探すものの全滅。信州では、田中絹代がやくざ者の末路を語る。宿屋では、隣の部屋に「葛飾柴又生まれのフーテン」を名乗る客（舎弟の登）。

すべてのエピソードが、寅という存在を概念化し再定義している。前作からおいちゃん役が代わったことと無関係ではあるまい。永遠に続くシリーズになるために必要な仕切り直しだったと思われる。カタギのルールから外れたやくざ者、生涯所帯は持てず、旅の空で客死すると決まった運命（そもそも奄美大島でハブに噛まれて死んだ筈）。何をしようとも評価されず、社会に歓迎されぬ改造人間。それは日本中に遍在する、すべてのアウトサイダーの姿だ。