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[コメント] 男はつらいよ 寅次郎子守唄(1974/日)

おいちゃんの気持ちがついに判ってしまった
ペンクロフ

1年に2回も観れば楽しいシリーズも、バカみたいに短期間でぶっ続けに観るとろくなことにならない。前作『恋やつれ』ですでに寅が邪悪な極道にしか見えなくなっていたオレは、今作でも寅のやることなすこと気に入らない。たまに会えば楽しいやつでも、毎日のように接すれば耐え難いということがある。オレは、寅とケンカするおいちゃんの気持ちがついに判ってしまったのだ。思えばおいちゃん役は森川信にはじまって松村達雄、今作からは下絛正巳と代替わりしてきた。それも判る気がするのだ。あんな男と濃密なつきあいをしていては、体がもちはしないのだ。

赤ん坊の面倒を見る気がいっさいないくせに、マドンナの前でだけ愛情ある保護者を演じてみせる寅。赤ん坊を利用してマドンナに会いに行こうとする寅。その際も、頼まれたから仕方なく行ってやるという体にしないと気がすまない寅。もちろん、これらは喜劇映画の笑いどころだ。ギャグシーンだ。しかし、自分がもはや笑えなくなっていることに気づく。

後半、上條恒彦演じるコーラス団長のアパートに詫びに来た寅が、「詫びに来る筋合いじゃなかったが来てやった」などと耳を疑うような非道い台詞を吐くのだが、団長は寅が酒を取りだした途端に破顔し、恋愛指南を受けることになる。オレはなんだか、映画ではなく暗黒を見つめているような気になった。酒が人を繋ぐ唯一のメディアだった時代は地獄だったとつくづく思う。

寅がとらやを出ていく時、決まってさくらに「博と仲良くするんだぞ」と言い残すルーチンにさえ苛々してしまう。さくらが博と仲良くなかった場面など、この14作目まで1秒もないのだ。どの口が言ってんだという話だ。それにしても傍若無人な寅を慕い続け、クレイジーヴァンプをとり続ける倍賞千恵子は凄すぎる。どんな悪球でも打ってしまうドカベンの岩鬼正美のようだ。映画1作や2作ではない。ここまでで14作もやっておるのだ。しかもシリーズはこの後もずーっと続いて全48作、プラス特別篇、しかも2019年には50作目となる新作ができるとかできないとか。ぼかー気が遠くなってしまった。

男はつらいよ』練達の諸兄には笑われることだろう。嫌いになったり好きになったりしながら、永くつきあっていくのが『男はつらいよ』なのだろう。とりあえずオレは、しばらく寅さんはいいかなーという気分になった次第。また、いずれ。

(評価:★3)

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