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[コメント] マスター・アンド・コマンダー(2003/米)

ドクターがなんとも物悲しい。(2004/03)
秦野さくら

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







史実によると、この頃の英国海軍の伝統では、艦長はその指揮下にある乗員と個人的な接触をもってはいけないことになっていたらしいです。ゆえに、大抵は一人きりで食事をし、他者と交わることがあったとしても、同じ階級の人間でなければテーブルを共にすることができなかったそうで。それゆえ艦長は、長期間人と接触を欠くことで神経衰弱になり、よく自殺したそうです。それくらいに、孤独な立場だったらしいです。(その点、この映画では、この艦長は割りと恵まれていたかもしれません。)ちなみに、このドクターとは、艦付きの博物学者(ナチュラリスト)兼医者。前記のような孤独感を払拭するため、艦長が、貴族階級の人間で性格が合いそうな、話し相手になる人間を指名することもしばしばあったらしいです。艦付きの博物学者は、もちろん趣味や酔狂で船に乗っているわけではなく、戦力として乗っているわけでもありません。当時、科学の世界でも、ヨーロッパでは国同士争っていたので、「大発見」をエリザベス女王に献上するという重大な任務を負っていたそうです。だから、彼らのケンカはお互いの任務をかけた重大な争いだった(はず)。

(この時代の英国の艦長と学者の船上での確執などについては、ダーウィンの自伝などを読むと、より面白くなるかもしれません。ちなみに、ダーウィンは、英国軍艦ビーグル号の船長フィッツロイの話相手として特別枠で乗船していました)

しかしなんとも悲哀を感じるのは、このドクター、史実と照らし合わせれば、かのダーウィンよりもガラパゴス諸島に先に到着したのに、結局、研究成果を出し名声を得るという意味では、ダーウィンに先を越されてしまったということになりますね。(結局、歴史に名を刻んだのはダーウィンだったから。)もしかしたら、このドクターは、二度とあのガラパゴス諸島に足を踏み入れることはできなかったのではないでしょうか。となると、「飛べない鳥だろ?逃げないさ」と微笑み笑いあうあの終わり方が、とても物悲しく感じられ……。これを<確信犯的に>言わせているのだとしたら、この映画、あなどれませんね。

−−−−

※ポールベタニーはとても良かった。「ロック・ユー」「ビューティフル・マインド」で見せた、テンション高めの役しかできないのかと思っていたら(でもそれが妙にハマッていて格好いいのだが)、このようなインテリ役もはまり役だった。

※宣伝文句と内容がここまでズレてる映画も久々に見た。宣伝では子役が強調されていたし、“愛するもののために戦え”云々はちょっと違うんじゃ?“愛”と“子ども”で釣る手口は露骨だなあ。まあ、私もそれに釣られた口だけど、本編の内容の方が良かった。確かにシブいとは思うけど。

(評価:★4)

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