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[コメント] アレキサンダー(2004/米=英=独=オランダ)

偉大な魂の弱々しい心。
HW

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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3時間の大作であり、見る前は覚悟が必要だったが、見始めると、意外と退屈せず、むしろそこらの2時間映画よりも長さは感じさせなかった。出来はまずまずという所。合戦や大都市バビロンの映像はもちろん、既に知識としては知っていた展開(ダレイオス王の無残な死、遠征の終了など)にも感動させられ、見応えある場面は多い。ゲイ描写が話題を呼んだが、個人的にアレキサンダー自体に特別思い入れが無かったのもあってか、その描写も全くまっとうなものに思えた。

監督が監督だけあって、また、時期も時期だけあって、変に政治色を期待された感じがするが、正直な所、その色合いは薄い。現代アメリカとの比較を論じている評も見受けるが、あれほど「過激」「露骨」「大きなお世話」と批判されるオリバー・ストーン監督がわざわざそんな回りくどい訴え方をするだろうか?とは言え、意識はせざるを得なかったようで、政治立場表明のようなセリフが散見され、それが中途半端なために、返って、変な誤解を招く作りになっているような印象がする。

この映画のテーマを挙げるならば、大王国を築いた英雄が当たり前の挫折者であった事だと思う。壮大な理想を抱き、世界に挑んだ英雄が決して万能なカリスマではなく、多くの人間的な弱さを抱え続け、最終的には夢破れるその姿を描きたかったのだろう。これは『スカーフェイス』のトニー・モンタナや『ウォール街』のバド・フォックスなどと同じく、「必ずしも正しいとは言えない野心に燃える男」という監督の定番主人公だ。『ミッドナイト・エクスプレス』では、それがつまらない出来心だし、『7月4日に生まれて』に至っては、女の気を引こうというもの。クズにバカにろくでなしが社会の不条理に憤り、正義を求めるという例の特異なドラマだ。ところが、「最果ての地へ」というこのアレキサンダーの野心はあまりにも突飛過ぎるために、まるでこのドラマには入って行けない。突飛な事が実に突飛であるというそのまま描かれているのだ。こういう意味では確かにオリバー・ストーンという監督は全くのバカ正直である。『ドアーズ』でも思ったけれど、都合良く美談にでも仕上げれば、まずウケるものをあまりに思うままに描き過ぎていて、誰に何を見せたいのか良く分からない。

結局、唐突に東方遠征を始めた良く分からない人物であるアレキサンダーを描く以上、見る側はその真意をでっち上げでも何でも見せて欲しくなるのだから、そこが良く分からないままであるのが失敗。栄光や苦悩、挫折が描かれて行っても、何処か他人事のまま。「失敗ではあったが、偉大であった」という事をセリフではなくて、もっとストーリーの中でハッキリ示して欲しかった。

(評価:★3)

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