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[コメント] RED レッド(2010/米)

蜂の巣を通り越して木っ端微塵の手前まで撃ち抜かれる家、車から歩いて(!)降りるブルース・ウィリス、と快調な出だしに唸る、いや、笑う。大げさな映像処理などなくとも、『シン・シティ』よりもずっとマンガ。(2011.9.4)
HW

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「チクショー! だから、この国はヤバい、って言うんだよ!」「・・・私たちを殺そうとする?」「その通り!!」

 ・・・という、序盤のやりとりに映画全体のタッチが集約されているだろう。国家機関の陰謀はもはやあまりに常識化しているので、「まさか?」「もしや?」などといまさら真面目に時間をかけて可能性を吟味・検討してからその恐るべき結論に至る必要はないわけだ(笑)。先回りして危機感を被害妄想風に叫ばせることで、国家と個人といった大文字の葛藤の可能性をあっさり封じてしまうところが、この映画のズルくも賢いところ。深刻さを回避するこの巧妙さは、CIAと対決しなければならないと知って真っ先にロシア大使館に助けを求める、というバカバカしい展開に至ってどこまでも確信犯と分かる。長らくスパイ映画の題材を提供してきた東西諜報合戦もウォッカのつまみにしてしまう、そういう映画なわけだ(それにしても、どうしてロシア大使館にはあんなジメジメと薄暗い地下室があって、そこへまた、例のように悪趣味なスーツを着た男が階段から下りて来たりするのでしょうね?)。

 そういう映画にふさわしいハチャメチャの一つが、白いドレス姿ですくっと直立して重機関銃をぶっ放すヘレン・ミレンなのだけれど、この人が王室やら貴族やらをまぁよく飽きもせずに演じてきたのは、ほとんどこのためだったんじゃないか、というくらいの気高さ。ジョン・マルコヴィッチからサブマシンガンを次々とさながら「給仕」されるところも実に痛快。そして、そこでマルコヴィッチの一言、「シークレット・サービスはやっぱり手強いな!」(笑)。その彼が胴にインチキ臭い爆弾を巻きつけて副大統領を追い立てるところで、私の頭の片隅に長年あった、ちっこいピストルで大統領を暗殺しようとする『ザ・シークレット・サービス』のマルコヴィッチのイメージが、「ウガー!」と叫びながら副大統領を追い回す本作のイメージにすっかり更新されてしまいました。面白い映画は過去の映画を食い物にして、そのままきれいに食い尽くすもの。これは楽しい。そうしてコミカルに徹しつつも、ルール無用のオフィス・プロレスのあとで、カール・アーバンの片目が痛々しく充血していたり、と守るべき部分で映画内のリアリティを保っているので、悪い感じがしない。

 ケチをつければ、主人公二人(+途中からマルコヴィッチ)の破天荒な逃走劇という前半と、モーガン・フリーマン(は、正直、スケベジジイ登場が一番おもしろかった気もするが)再登場以降のチーム戦で展開する後半、それぞれ楽しませるものの、全体として見ると、ややチグハグさが残るのが少し気にかかるところ。散々追い回されて一挙に反撃に出る、というすっきりした展開ではあるのだけれど、敵側まであっさり守勢に転じてしまって、前半見せた執拗さがどこへやらなのだ。メアリー・ルイーズ・パーカーも、魅力は伝わってくるが、エレベーターでのコンタクト・レンズ拾いくらいしか見せ場が与えられておらず、その魅力は古典的巻き込まれヒロインの枠を出ない(尋問室で動じる素振りもなく言い返す、という「強さ」もやや型通り)。そのため、ヘレン・ミレン登場以降、主人公カップルは、登場シーンの激減もあって、ミレンとブライアン・コックスの老カップルに食われてしまった印象。と言うと悪くしか聞こえないのだけれど、おかげで、映画における性別年齢分業が小気味良く裏切られたのも事実だろう。そういう意味では、つめの甘さも悪いほうへ転がっていない映画。おもしろい。

(評価:★4)

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