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[コメント] 災厄の街(2006/米=カナダ)

街は呪われ、家は軋み、人々は狂う。トビー・フーパーは「終わりの光景」に憑かれている。暗雲立ち込める禍々しい世界と容赦なく襲いかかる暴力。くたびれたモノローグとともに迎えるクライマックスには、待ち侘びていたような安堵すら漂う。(2011.9.26)
HW

**ネタバレ注意**
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 『スペースバンパイア』『死霊伝説』の流れを引くフーパーの滅亡モノ。『悪魔のいけにえ』よりうっかりテレビで見た『スペースバンパイア』がフーパー原体験という妙な個人的経緯もあって、こういうフーパーには愛着を感じてしまう。それでいて、大工仕事をしていてハンマーで自分を殴り殺してしまう男など、人間をプレス機にかけてしまう監督(笑)にふさわしい、元も子もないようなパワフルさもしっかりと出ていて、テレビのほうが制約なく作風が発揮されている、とはあまり言いたくないが(まるっきり言ってますけど)、この企画らしい成果だろう。

 オープニング・ショットから漂う冷徹さが心地よい。揺さぶられる家、いっせいにダウンするビデオモニター、雑音が混じるラジオ、乱れるコンパス、といったいちいちも、不吉さというよりは直接に絶望へと結びつけられている感がある。これを見てよく分かった気がするけれど、間違いなく代表作の一つに数えられる『ポルター・ガイスト』が、同時にどこかフーパー色の薄い作品であるかのように思われてしまうのは、制作のスティーブン・スピルバーグがどのくらい口を出していたかはともかく(二人は特に険悪ではないようで、その後もフーパーはスピルバーグからのテレビの仕事を引き受けている)、呪われた場所と阿鼻叫喚の連続とが用意されていながら、意外なほど黙示録的な気分が稀薄だったからだろう。その点、こちらは最初から最後まで途方もない無力に取り残されるばかりで、実にアット・ホームなフーパーが楽しめる(笑)。

 不満を言えば、中編に求めるのは欲張りかもしれないが、明かされるお話自体は拡がりもなく尻すぼみ的なこと。いっそ説明など求めないので、一回褒めたのを裏切ると、モノローグなどなしで、ヒューマンな地平の向こうへ行ってしまうような壮絶さをやってくれてもよかったか。

(評価:★3)

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