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[コメント] うなぎ(1997/日)

水槽の中の。(レビューはラストに言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ねっとりした人がたくさん出てくるなかでも市原悦子の存在感はずばぬけていると思う。『青春の殺人者』でもそうだったが、清水美砂のベッドシーンで絡んでいく彼女の姿は子どもの頃に観ていたら間違いなくトラウマになっていた。本当に稀有な役者、というよりも稀有な存在である。

とてもシンプルな話だ。水槽の中のうなぎのごとく物言わぬ男は、「妻を愛していた、でも裏切られた、愛していたのに許せない」、この情念だけをぐるぐると八年間変わらず胸に抱えていた。男が水槽の中のうなぎである。しゃべることも心を開くこともなく、粘膜のような情念だけを抱え、水の底を這いずり回っている。手紙はその情念が産み出した虚構。地の底を這うような柄本明が情感を引き立てる。

市原悦子と常田富士男を出すまでもなく「まんが日本昔ばなし」のような寓話である。もう一度檻に入ることになった男は、そのときようやく水槽から抜けましたとさ、めでたしめでたし、というお話。カンヌは日本の寓話にパルムドールを授けた。同時受賞の『桜桃の味』同様、賢明な選出だったと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)moot けにろん[*]

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