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[コメント] 萌の朱雀(1997/日)

緊張感をはらんだうえでの静謐さというよりは、情念がすっぽり抜け落ちているゆえの静謐さ。(レビューは後半部分の展開に言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







観たことがあるようでいて、実際には初めて目にした関西奥深くの山村の風景。独特な方言。そのインパクトが強かったゆえに、初見時には好印象を抱いていた。

だが、二度目の鑑賞では少し違和感をおぼえた。本作のストーリーの軸となる父親の失踪。彼が残した8ミリの存在感。重要なシークエンスであり、村人たちの顔は忘れられない印象をもっていたがゆえに初めは気づかなかったが、なぜあの8ミリには家族の姿がまったくないのか。そして残された家族はなぜそれを疑問に思わないのか。 

エモーショナルな部分を敢えて切りとるというのは、映画のもつ重要な表現方法ではあるが、そういうのとはまた別のような感じがする。父親と残りの家族との関係性がすっぽり抜け落ちているために、本作は空虚である。「空虚」を描いた映画はいくつもあるが、作品の構造そのものが空虚なのである。構造の空虚に謎は存在しない。それを肯定的に受けとめることはできない。

そのわりに最後の祖母を追っていくカメラの動き。膝上までのショットで眠っているところを映すだけに飽き足らず、バストショットにまでカメラは執拗に祖母を捉えようとする。正確には寄っているのだろうが、私には下からなめまわしているように見えた。そのあたりに何かを強引に追いまわそうとする「潔ぎ悪さ」を感じた。情念を映した次作『火垂』のほうが、河瀬直美の本領が発揮されていると思う。 

とはいっても、初見時の印象がすべて色褪せたわけではないので3点。

(評価:★3)

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