例えば彼女がモーテルで偽名を使わざるをえなかった理由や、妹と恋人がモーテルを訪ねる機会を生み出した探偵と妹との間の信頼関係構築の描写など、あらゆる要素が次の展開への伏線になっていて、これらの要素が一つでも欠けると話に矛盾が生じるか、もしくは展開そのものがストップしてしまう。見事に仕掛けられたドミノ倒しを見るかのような（主人公かと思われていた女性が中途で死んでも、ドミノは次の仕掛けに向かって細々と倒れ続けている）、実に精緻な脚本。

無駄が極限まで削ぎ落とされたなかで、犯人についての精神分析の話は無駄に長く説明的で蛇足だと思ったが、それも実は本当に母親が憑依しているのかもしれないと思わせるあの不気味なラストへの伏線になっていた。

次から次へと出来事を浴びせかけ先の展開を読めないようにして観る側の心理を不安を導く引力が強すぎて、話の展開とは別の何かが浮かびあがってくるような物語特有の自由度は低いが、ここまで緻密に作られているのなら十分かなとは思った。（★3.5）