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[コメント] マルコヴィッチの穴(1999/米)

「あんなこといいな、できたらいいな」ってわけにもいかない。(レビュー付記、12/30/03)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ドラえもんの四次元ポケットからは、時間や空間の壁をも超克して各人の夢をかなえるような、不思議な道具が出てくる。しかし、それを与えられたのび太は目先の欲望に捕われて、安易な形でそれを利用し、最後には痛い目に遭ってしまう。

スパイク・ジョーンズの次回作『アダプテーション』を観て気づいたのだが、この作品にも脚本チャーリー・カウフマンの人間観が色濃く表れているのだと思う。つい目の前のものに囚われて、またおかしな行動をとってしまう僕、周りの人はとてもうまくいっているのに、なぜかいつもうまくいかない僕。二度目の鑑賞で、一人称による現代人の悲しみが本作の主旋律だったように思えた。ドラえもんが実際はすぐれて正当で教育的なストーリーを備えているのと同様に、本作は突飛な設定を打ち出しつつも、実際はとても真っ当な作品である。

ドラえもんが出す道具(や道具が産み出す可能性や世界観)について深く考え出すと、『ドラえもん』という話に備わった構造が崩れてしまうのと同様に、「哲学的だ!」「深遠だ!」と興奮する登場人物達とは裏腹に、本作も「穴」の可能性について考え出すと、逆に話の主旋律部分である現代人の欲望や悲しみから遠ざかってしまう。うまく集中できなくなると、(現代における疎外を色濃く体現する「郊外」へ通じる)ニュージャージー・ターンパイクに投げ出されてしまう。このあたり、スパイク・ジョーンズとチャーリー・カウフマンは自分たちのとる姿勢について自覚的なのかなとも思える。

ただ、主人公であるジョン・キューザックの行動がさほど悲しみを感じさせない(また悲しみを感じさせるほど狂いきれていない)ことや、他の登場人物の描き込みの浅さゆえに、初見時に抱いたよそよそしさを拭い去ることはできなかった。一人称でしかありえない幅の狭さ、言い換えるならそうした生真面目さが、後半部分の窮屈さを生んだように感じた。それが彼らの味でもあり、限界でもあるのだろう。(★2.5→★3)

(評価:★3)

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