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[コメント] ココニイルコト(2001/日)

全体に漂う胡散くささは、主人公の勤務先が広告代理店ということだけに起因するものではない。
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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…とはいっても、どうしてもそらぞらしい最大公約数的な言葉を用い、マジョリティに販促していく構図や、そこでうごめく代理店の方たちのマーケティング能力といったものがいまいち好きになれない私には、本作がドラマ「ホテル」のような業界支援作品に映ってしまうことは否定できない。主人公が、ちょっとだけ自分の身を切り崩して出してきた言葉が受け入れられていく過程そのものは、結構薄っぺらい。彼女は今後そういう方向性で仕事をしていくのだろうか。

それは私の偏見にすぎなかったとしても、彼女は本当に「ココニイルコト」の意を悟ったのだろうか。営業にまわされても、島木譲二への接待時での態度のようにそこでの仕事をまともにしている風景は一度もなかった。結局、彼女にとっての「ココ」は、今彼女が存在している場所ではなく、クリエイティブ局という場所であり、その「場所」に戻れたのも彼女のほうから動いたわけでもなく、ただただ彼女に都合よくたまたま仕事がまわってきただけの話である。そういう意味では、「「ココ」カラハナレラレナイコト」だった。(離れられないなら、それはそれでもいいとは思うが、本作自体にそういう志向はないと思うので…)

ただ、全体を通すと、『がんばっていきまっしょい』や『はつ恋』などのような、作家性を突出させず、過剰な展開など運動性を強調せず、穏やかな語り口で物語を丹念に積み重ねていくいわゆる日本映画の系譜につながる作品なのだと思う。けっして悪くはないのだが、あまりにも小奇麗にまとまりすぎていて、どこか一部での過剰を求めてしまうまだまだ血気にはやった若者(←?)である私には食い足りない部分が多い。また、いわゆる「ちょっといい話」をあざとくない形で、うさんくさくない形で語っていくのは、わりと難しいのではないだろうか。ちょっとしたことであるはずの各エピソードが、どうしても大味に映った。

唯一素晴らしかったのは、病院の屋上のシーン。たくさん干された白いシーツ、屋上に昇った高所恐怖症の彼の影、一瞬だけ圏外を越えてつながる携帯電話のメッセージ、やがて天に昇っていく一個の風船、ここだけは「小奇麗」ではなくきれいだった。(もっとも、いまいち現実的な意味はわかっていないのだが、おそらく妹が見た彼の影はすでに彼がこの世にいないことの証しなのかと感じた。)(★2.5)

(評価:★2)

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