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[コメント] インソムニア(2002/米)

徘徊する、男の魂。(レビューはラストに言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







クリストファー・ノーラン、今回も構成をいじった同種の作品を撮るようなら、今後彼の作品への期待は捨てようと思っていた。しかし今作は直球勝負、そして観応えのある作品であった。

とはいえ、テーマ性は前作『メメント』から引き継がれている。前も後ろもわからず、ただただ茫漠とした現在を進んでいく孤高の男の魂の徘徊。そうしたあらぶれた空気は本作でも満ちており、こうしたテーマ性の継続は作家性として好ましく受けとれる。

ぎすぎすとした男の内面、息苦しく、自分の周りはほとんどすべてと言ってよいほど敵。あのラストはそこからの救済に感じた。ノーラン自身が向き合ってきた、そのテーマへのけじめなのだろう。

永遠の眠りという形でカタをつけるのは、彼なりの一つのダンディズムなのかもしれない。しかし、すべてを精算できないまでも、なんとか生きた形で敢えて汚名を浴びながら生きていく逞しさ、個人的にはそうしたものを観たかった。うがった観方をすれば、死んだらそりゃ苦しみは終わるだろ、とも言える。そういう意味では、多少安直さを感じる終わり方であった。

とはいっても、細部で引き込まれる部分は多かった。ラストにしろ、光の届かない小屋の下の水の底で死んでいったロビン・ウィリアムズと、光の届く地上で眠りに就いたアル・パチーノとの対比は印象に残った。

『メメント』で効果的に使われていた無限とも思える反復の描写は、本作では演出面や役者の演技で打ち出されていた。例えば、アル・パチーノ演じる老刑事の過去 、作品内では衣服に血を付着させたという案件が提示されるが、ひょっとすると彼はそれよりも前から同じような偽造を繰り返してきたのかもしれない。事実はそうでなかったとしても、少なくとも彼自身は監査への恐怖心や不眠症からそういうふうに感じているように見えた。ほかにも、ラストの水上の別荘でヒラリー・スワンクを殴ったときのロビン・ウィリアムズの冷酷な眼。これもひょっとしたら、彼がパチーノに話してきた事実のあらましはすべて嘘で、実像は冷酷無比な(今までもそうしたことを繰り返してきた)猟奇殺人犯なのではないかと、あの眼の演出一つで思わせた。そのあたりの想像力を膨らませてくれるあたり、本作は優れていた。

だからこそ、ハリウッドアクション大作的な、無味乾燥な展開(ラストの銃撃戦など)を押しつけられたのが悔やまれる。あんな、肝を冷やさせるような大きな音は本作には必要ない。

*それにしても、『ファーゴ』といい、『スウィートヒアアフター』といい、北米で氷雪世界というと、どうしても閉鎖的な人間関係を連想させるものとしてばかり使われてしまう。やっぱり彼らは(←乱暴な言い方だが)暖かいところが好きなのだろうか、そういえば秋でも冬でも半袖に短パンの人多いし。

*ミニシアターのみの公開なら別として、ハリウッド拡大系ロードショーとなると、『メメント』の監督最新作、というだけでは、集客力が見込めないのだろう。そうすると、どうしても需要を刺激するような言葉を織り交ぜていく必要があって、ああいう宣伝になったのだと思う(そういう意味では肝を冷やさせるような、あの大きな音も仕方ないのだろうか)。となると、観る作品を選ぶ側にしてみれば、拡大系作品については、ミニシアター系作品以上に宣伝の虚実を見抜く眼力が必要になってくるのかもしれない。

(評価:★3)

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