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[コメント] 過去のない男(2002/フィンランド=独=仏)

いつもより少しだけ口あたりのよいカウリスマキ。
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







前作『白い花びら』を劇場で観て以来、カウリスマキ作品はまだ4、5作ぐらいしか観たことはない。そんな乏しい鑑賞経験を通してわずかながら了解してきたカウリスマキ作品の見どころは、幸の薄い主人公(たち)が悲惨な運命を辿っていくものの、そこに陰惨さはほとんどなく、むしろ妙なおかしみや滋味に溢れているところかと思う。初めてカティ・オウティネンを見たとき、なんで彼女がヒロインなのかと思っていたが、数作観ていくうちにいつしか彼女が登場すると、「よっ、待ってました」と掛け声の一つでもかけたくなってしまっている。そういったあたりがカウリスマキ作品の魅力の一つだろうか。

本作もそうしたカウリスマキ作品の魅力が詰まっているが、そのなかでも他作品に比べ若干とっつきやすい感じがした。主人公が単色カラーのシャツとスーツを身につけるシーンや救世軍のバンドが「バンドネオン」を演奏するシーンなどは独特のダンディズムに満ち溢れている。

ただ、今回は少しだけエピソードそのものの「悲惨さ」が薄かったように思えた。最初に半殺し状態にされ身ぐるみはがれた以外は、結構主人公に都合のいい形で話が転がっていった感がある。たまにはそんな感じもいいのかもしれないが、「悲惨さ」がないとどうも、いつもの「おかしみ」が十分に活きてこないような気がした。最後のほう主人公は列車の中で寿司を食べていたが、本作全体がわさび薄めの味わい。そのぶん最初の口あたりはよいのだろうが。

そうは言っても、それはあくまで微細な部分の話で、巨視的な視点に立てば、変わらぬカウリスマキ作品の良さが保たれており、満足の出来だったとは思う。

(評価:★3)

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