こんなところでいいだろうという適当な姿勢があちこちに見られる、まさに退屈極まりない作品である。

まず、敵の造形がよくない。OZという電脳空間に忍び込んだウイルス的AIとの戦いになるが、向こうから意味もなくカウントダウンを設定してきたり、向こうは負けなければ勝ち・こちらは勝たなければ負けなのにあえて必要のないリスクを冒してきたり、こちらに勝たせるチャンスを与えるようにしか見えない。ユーザーIDを奪って水道や交通などの社会インフラを麻痺させるのなら、ネットワークや電力インフラも麻痺させてもいいのに、なぜか通信回線は常にしっかり確保されているのはその最たるものだ。

技術レベルもよくわからない。OZはセンスは古いものの先進的な電脳空間なのかとも思うが、具体的に何をする空間なのかナレーションの説明があるだけで、リアルに伝わってくるものがない。ユーザーインターフェースが原始的なのも、ちぐはぐで興を削ぐ。そもそもOZに入りながら、電話で音声通話するのはどうかと思う。これの何が問題かというと、技術水準や世界観に一貫したものがないので、今の状況で何をすれば勝てるのかが見ていても全くわからないということである。主人公たちが思いついた茶番のような選択肢を、そうなのかと後追いで見ているだけである。

人物造形も非常に薄っぺらい。主人公他２、３人は個人的事情が示されるが、それは単なる説明止まりなので何も伝わらない。結局、それぞれの能力はわかるがキャラクターは全くわからない。各人は、花札、暗号解読、格闘ゲームなど特技を持ち、なぜかそれが戦いにおいて必ず生かされる。息子たちもトラブルの現場で役に立つ仕事をしている。その頂点に立つのが、指示出し能力を持つバアさんである。主人公たちは、自分が役に立つ条件下で自分の持っている能力をそれ以上でも以下でもなく発揮させたというだけで、人間的な成長は全くない。

そう考えると、これはバアさんが孫からちょっと根暗な年下の男の子を落とす方法を相談されて、一肌脱いでみるかと考えて、ついでに、最近なんだか家族の結束が弱くなってきているのを感じていたので、それぞれが役に立てるような状況を演出するとともに、主人公が家族の中に溶け込んでいけるようにシナリオを書いてみた、ということなのだろう。そのはた迷惑な陰謀に、全世界が巻き込まれたといったところではないか。

ただ、実際は危機的状況で培われた結束なんて、終わってみれば雲散霧消してしまったりするわけだけれど。