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[コメント] ガンジー(1982/英=インド)

ガンジーが世界を永遠に変えたとは思わない。だが歴史上彼のような行為がこれほど大きく時代を動かしたことがあっただろうか。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「ガンジー」の宣伝用ポスターにこう書いてある。

「His triumph changed the world forever」

果たしてガンジーは世界を永遠に変えた「偉大な人物」なのだろうか?

▼ガンジーはなぜインドを改革しようとしたのか?そこが明確に描かれていない所がこの作品の最大の欠点だ。ジェットコースターにいきなり乗せられたようなものだ。本作は彼のインド独立運動がテーマなのに、その動機付けが満足に描かれていない。帰国後の国内視察によって貧困を目の当たりにしたからなのだろうか。それだけでは不十分だ。私にはずっと「なぜ彼はこんな頑張る?」感が付きまとっていた。ここだけが非常に惜しい点だ。

南アフリカでの彼の運動は、黒人蔑視というきちんとした契機が存在していた。ガンジーが南アフリカにいたことは初めて知ったのだが、今でも彼の名は残されているのだろうか?

▼この作品は歴史的事実に基づいたリアリティのある作品だ。ここには2つの重要な要素がある。

一つは、「思惑の交差」が生々しいこと。つまり、意見や考え方の違いがはっきりと炙り出されているのだ。

そもそも、イギリス人とインド人の関係は軍事力以前に、話の食い違いなのだ。イギリスに限らず、コロニアリズムの推進者側の人間は《遅れた国の住民がかわいそうだから、自分達の力で文明国に引き上げてやろう》という態度である。もちろん諸々の利権を奪うわけだが、好意なのだ。作品中でもイギリス人はインド人に対し「君たちには政治など出来ない」ような発言をしていることからも分る。

#もちろん完全な自治が至上であるかといえばそうでもない。イラクや北朝鮮のように気狂いに支配されていたらたまったものではないだろう。まあここは微妙な問題だ。

もう一つはガンジーを無闇に偉人扱いしていないこと。もちろん数々の牢獄生活や被暴力、断食といった隠忍自重の人生は尊敬に値する。(最初にも述べたが、彼の意志の源はどこにあるのだろう?ここがびしっと描かれていないのは残念だ。)

だが、彼は超人化されているだろうか?否、違う。私にはそこまで偉人には見えなかった。

▼ガンジーは知っていたのだ。自分には意志の強さしかないことを。自分は皆に祭り上げられるほどの偉人ではないことを充分悟っていただろう。

そしてガンジーは気付いていただろう。意見に完全な一致はないのだと。

気に食わず暴力に訴えるケースなど数え切れないほどある。「非文明人」に業を煮やしたイギリス軍、自分の子供を殺された親、相手の宗教を受け入れられない人々etc。だが彼は暴力を拒否した。飽くまで相手の変化を望んでいた。半ば無理だとは知りつつも、だ。

受け入れられること、そうでないこと。意見は多くの場合食い違い、争いを招く。しかし無理矢理に相手を押し込めたって意味はない。相手そのものから変わらなければならないのだ。その信念を貫き通したことこそ彼の真の偉業ではないだろうか。彼自身は偉人ではないかもしれないが、彼の行為は偉大であったのだ。

そんな彼が、自分の意志と正反対の、つまり暴力=銃弾によって暗殺されてしまったのは皮肉中の皮肉である。残念としかいいようがない。

▼世界は平和になどならない。どんなレベルでも人が2人以上いれば争いは起きる。ガンジーは勝利を収めたとは思わない。ガンジーが世界を永遠に変えたとも思わない。だが歴史上彼のような行為がこれほど大きく時代を動かしたことがあっただろうか。

#3時間近かったが緩みの無い上質な作品。多分5時間でも10時間でも問題なかったのではないだろうか。出来るだけ多くの人に観てほしい作品だと思う。この映画がアカデミー賞を取ったのはとても意味のあることだ。

(評価:★4)

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