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[コメント] リトル・ダンサー(2000/英)

傑作でもない。駄作でもない。佳作でも愚作でも問題作でもない。「卑作」という言葉が相応しい。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







シネマスケープとここまで評価が離れてしまったのは初めてだ。

見ているときに様々な罵倒の言葉が頭をぐるぐると駆け回っていた。具体的に嫌いなシーンがあるわけではない。破綻もしていないだろう。この映画に取り付く病はその作り方に存在するのだ。

一番にいえることは、この映画あざとすぎ。ヤバいぐらい露骨に「観客にウケようウケよう」としている。ここに腹が立つ。ビリーとかバレエとかストとかそんなことには何ら意味はないのだ。この映画の目的はただ一点、ウケることだろう。そこに向かって一心不乱に作っているのが分る。オレはこういうものからひとかけらの誠実さも感じない。

そのウケ狙いが最も顕著に表れているのが、構図。絵になりそうな、予告編で使えそうな映像で埋め尽くされている。イヤラシイ映像のオンパレードだ。バレエのシーンだけはいい。問題は他だ。例えばビリーと父親が一緒にいるシーン、坂のシーン、ベンチに二人並ぶシーン。などなど実にわざとらしい構図だ。まあどこも酷かったけど特に酷かったのはビリーがデビー(だっけ?女の子)の部屋で枕を破いて彼女を見つめるシーン。最低最悪だ。一体このシーンに何の意味があるというのだ! ただ単にこういう予告編で使えそうな絵を撮りたかっただけなのだろう。全体的に「こう撮れば見栄えがよいだろう」ってのがまずありきでそれに合わせて物語を進めていっている。そこには魂も何もない。

それと甘っちょろ過ぎ。ぬる過ぎ。害がなさ過ぎ。なにこれ。何でここまで毒を抜いたのか分らん。これではお子様ランチ、いや離乳食だぜ。この映画は「陽」ばかり描いて「陰」に当たるものを一切描いていない。それはポジティヴなんてものではなく、単に現実逃避しているだけだ。最初、父親はビリーに反対しているんだけどオレはすぐにこう思った。「こいつ結局折れてビリーの味方になるんだろう」と。予感的中。このなにもかも良い方向に収束しつつある、という予定調和ムードは、物語の存在自体に疑問を抱かせてくれる。

もちろんストの場面とか存在することはしていた。でもそれは完全に上っ面だけだった。ハッキリいって撮らないほうがまし。ここまで無意味な映像の羅列を見せられたのは久しぶりだと思う。それとこの映画を覆い尽くす《清潔さ》。ビリーを頂点とし、ここに出てくる登場人物は皆キレイなんだな。別にボロの衣服にしろとはいわないけどこれでは貧乏な街、家、ストといった障害を絡める説得力がない。作っている側からすれば、この清潔感は計算済みのことだったのだろう。「この映画はストーリーが重要なのであって衣服は問題ではない、だったらキレイにしたほうが観客にもウケがいいだろう」みたいな感じだ。

音楽の使い方も最高に下手糞。絶妙なタイミングで音楽が入っている。『フットルース』に並んだなこれ。それにいくらなんでも使い過ぎだろ。きっと「サントラを作って儲ける」って譲れない目標がまずありきだったのだろうな。サントラを作りたいから音楽が存在するのだ。

今まで書いてきたどの要素にもいえることなんだけど、結局迎合しすぎなのだ。ハリウッドの大作ならばこちらも準備があるしある程度許せる。だが、地味なヨーロッパ映画の「ふり」をして忍び込み、上品な映画館で「口コミ」によって広めてください、といいたいであろうこの作品はイヤラシサしか感じない。

(評価:★1)

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