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[コメント] ブラジルから来た少年(1978/英=米)

卍。
24

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







♯誰でもヒットラーや当時のドイツ国民にはなる可能性を持っているから。メンゲルに殺害された老人もまた黒人差別をしている。クローンなど利用しなくても。

まず始めにこの作品の短所は演出の甘さにある。長尺モノは苦手だが、絶対に大作にするべきだっただろう。つまり時間が短すぎるのだ。人物の設定自体は強烈なのだが、内面の描写がいかんともしがたく弱い印象を受ける。ストーリーに於いても展開がかなり速い上に各々のシーンが浅くなっている。まあ娯楽的には上々のレベルで充分楽しめたので☆4をつけたが、そこまで完成度の高い作品であるとはいえない。

しかし、より本質的な面を見てみると実に興味深い構造で深みがあると思う。この内容を解釈しようとするのなら、ある程度の前提(例えばリーバーマンは強烈にナチを憎んでいる‐作中では殆どそのような描写はないが‐といった類の)を考慮に入れる必要性が生じる。

今だから、クローン問題が現実化している現在だからこそ本作品はもっと認知されるべきであると思う。公開当時はSFの端くれ程度にしか認識されなかったのだろうか?やたらにクローンの説明に時間を割いているし、字幕も「クローニング」との表記になっている。だが現代の科学技術レベルに基づけば最早人間のクローンも不可能ではないのは周知の事実である。

誰が狂気の指導者のクローンを作らないと断言できるだろう?どこかの独裁専制国家が技術を入手すれば実行しないとは断定は出来まい。メンゲルだって彼の思考がユニヴァーサルなものだと確信しているからこそ戦慄の計画を実行していたではないか。某国の(元)最高指導者も自己の信念に基づいて誘拐事件をやらかした。もしかしたらクローン技術を所有しているかもしれないし、絵空事とは言い切れない。

▼《ヒットラーJrたち》の描写に言い知れぬ恐ろしさがある。もちろん序盤はホラー映画的な気味悪さが支配的であった。より不気味だったのは終盤の少年である。彼は犬に命令しメンゲルを殺し、リーバーマンにも冷徹な態度を取る。人間的な印象など全く無くまるで機械のように見える。もしくはヒットラーのように見える。映画では描かれていない、生き残った少年は(時代が異なるため)ヒットラーそのものにはなり得ないだろう。だがヒットラー的要素を享有しているが故、彼らの未来を想像するのは恐ろしい。決してハッピーエンドではないのだ。

では何故リーバーマンは《ヒットラーJrたち》を殺させようとはしなかったのだろう。確かに彼らを野放しにしておくのは危険な行為であるかもしれない。だがそれは結局リーバーマン(とその事実を知る者たち)の個人的な意見に過ぎないのだ。ヒットラーも彼自身の個人的なアーリア人至上主義によって無実の人間を大虐殺した。《ヒットラーJrたち》もまた未だ無実である。子供を自分の信念だけで殺害することは、リーバーマンは自分とヒットラーが重なって見えてしまう。それに恐れを抱いたのではないだろうか。ナチ追跡者の自分がヒットラーと同じ道を辿るべきではないと気付いたのかもしれない。

ローレンス・オリビエは相当年老いていたが矍鑠として格好良い。が、グレゴリー・ペックは大ミスキャスト。彼の作品を何本も観てきたからイメージが違いすぎるし、悪役の、それも狂気の塊のような役柄は演じられない!

(評価:★4)

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