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[コメント] 蛇イチゴ(2002/日)

大人になった子供から見た、家族の風景
ミレイ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この家族は本当にひどい。 表面上平和を装って、少しバランスが崩れただけで醜い一面が忽ち露呈して、お互いを傷つけあうようになる仲良し家族。それなのに、やっぱり散々罵り合って軽蔑しあった後で、平気で「お風呂入れよ」みたいなやりとりもする家族。夫の喪服をハンガーにかけてあげる母。兄の犯罪行為に気づきながらも、一緒に納豆ご飯を食べ、笑顔で世間話をする正反対の兄妹。(←このシーンの最初は妹、笑わないようにしてたのに、ついつい少し微笑んじゃったんだと思うんだけど)

何ともいえないリアルな家族の空気感だと思う。 どんなに微妙な立場同士だとしても、顔を合わせれば相手のことが手に取るようによくわかり、正直なところ久しぶりに会ったら少しは話もしたくて、共に過ごした家族としての日々と絆が自然に日常を送らせる。 微妙だ。この、いやらしい罵り合いと、逆流して時々流れる家族の風景。 不自然なようでこれはとても自然だ。

家族とはいえ、結局は他人同士。全部が仲良しで上手くいくことなんてありっこない。家族だからこそ時には醜い感情もむき出しに抱く。それでも風呂場のヒーターの使い方を教えてしまうのは、納豆ご飯を一緒に食べてしまうのは、綺麗になったなんて言ってしまうのは、それを喜んでしまうのは、自分で通報したのにも関わらず逃げおおせたらしい兄にどこかで安心してしまうのは、「家族だから」としか言いようがない。

何より、何を考えてるか分からない変わり者の兄は、彼なりに家族を思っている。大事にはしてないかもしれないけど、少なくとも否定はしてない。むしろ宮迫が一番家族を肯定している。さっさと逃げれば良いのにさわざわざ蛇イチゴをテーブルの上に置いて行く所、あれはどう見ても「家族の会話」の一つだろう。

どうあっても、家族は必ず繋がっている。そう言うと綺麗に聞こえるけど、これは深い業でもある。 親兄弟のしんどさと愛しさ、そしてそんな感情すらなくなってもきっと一生繋がってるんだろうなという、うんざりするような安心するような気持ち。これをとても、強く感じさせてくれた映画でした。

この監督の描く家族像・兄弟像を見ると、私はなんだか安心する。 自分と家族観が近いのかもしれない。 是枝監督との対談でも言ってたもんね。「故郷は遠きにありて想うもの」って。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)chokobo[*] 煽尼采[*] moot sawa:38[*]

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