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[コメント] 安藤組外伝 人斬り舎弟(1974/日)

亜流に見えてなかなかに王道。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 組の礎を築いた武闘派ヤクザが、企業ヤクザ化の波に乗ることが出来ずに「はみ出し者集団の中のはみ出し者」と化していく。『仁義の墓場』の石川力夫を例に取るまでもなく、この「はみ出し者集団の中のはみ出し者」という主人公設定は、ヤクザ映画における一つの王道だと思います。しかも昭和ヤクザを扱う「実録物」映画においては、それがそのまま高度経済化への道を突き進む日本を体現することにもなっていくわけで、だからこそ現代に生きる観客はその失われた武闘派ぶりに心を躍らせ、聞き分けのなさに己の幼児性を投影し、破滅への道のりに共感を強いられることになるんです。

 今作の主人公・日向謙(菅原文太)は、その点において言えばこの上なく武闘派です。それは冒頭のシークエンス、「なら二万円揃えて来い」のセリフで強烈に明示されます。考えてみればこのやり取りもある種の王道であり、また小松方正の殴り込みに申し合わせたかのように出所してくるところもまた王道です。結局、『実録安藤組』なんていう亜流、または異形の映画として括られるポジションにありながら、実はかなり安定志向の映画なんじゃないかと思ったりするわけです。

 そしてその安定を力強く支えているのが、武闘派日向がダメになっていく際に匂い立たせる“可愛気”です。ここで観客が周囲の人物と一緒になって主人公を嫌ってしまっては元も子もない。そこの振り幅をキッチリと際立たせるためには、ダメな主人公は同時に可愛くなくてはならないんです。日向が野田(梅宮辰夫)との決闘をすっぽかし、翌日にカラカラと笑って「これからは五分で付き合おうぜ!」なんて言っちゃうシーンがその頂点で、これは菅原文太の持つ“豪の色気”がしっかりと活かされている結果なんだろうなと。無茶苦茶な文太が格好良く、鬱陶しく、可愛らしい。周りを固める豪華出演陣の眩しさも相俟って、ちょっと気持ち良い映画に仕上がっていました。

 ただそれだけに途中途中で挟まれる安藤昇の独白が妙で笑っちゃいます。「その時私はトップ女優を愛人にしていた」だの「その時私は頂点の喜びを噛み締めていた」だのって、本筋と関係ないオヤジの自慢話と化している。この時期のヤクザ映画における安藤昇のポジションが伺えて、ある意味楽しくもあるんですけど。

 あと最後に一つだけ言わせてもらうなら、「人斬り舎弟」と謳っているのにむしろ斬られてばっかりで、斬ったのはジム(安岡力也)だけなので誇大広告です。しかも劇中「人斬り」の名を冠しているのはそのジムだったりするから始末が悪い。

(評価:★4)

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