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[コメント] チャーリーとチョコレート工場(2005/米=英)

ジョニー・デップがインタビューで、今作を自分の子どもと観た後に「お父さん気持ち悪かった」と言われたと言ってました。かなりいい話だなぁと思いました。確かにこんなお父さんは気持ちが悪い。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 お菓子好きの子どもであれば、誰もが一度は夢見るであろうお菓子工場。今作はそんな文字通りの甘い誘惑で子どもたちを誘い、ゲッとするような仕打ちで教訓を叩き付けてきます。正にアメとムチ。ただその中で面白いのが、そのムチ部分こそが今作の楽しさの肝になっているという点です。これは1971年の同原作の映画化『夢のチョコレート工場』でも全く同じなのですが、観賞後に観客の脳内に焼き付けられるのはチャーリーでもウォンカでもなく、ダメ子どもの痛めつけられっぷりとウンパ・ワンパ族の歌なんです。このお話では正にこの毒っ気こそがその根幹を為しているわけで、だからこそ祖父母は互い違いにベッドに寝かされ、ウォンカは鳥かごみたいな歯列矯正機を付けられているんです。工場見学のスタートで「イッツ・ア・スモール・ワールド」みたいな人形がドロドロと燃え溶けるのは、そんな悪意の宣戦布告ってとこなんでしょう。

 そしてその悪意がもっとも強烈に溢れ出しているのが、勝利至上主義の少女バイオレット(アナソフィア・ロブ)がブルーベリー化するシーンだと思います。ここは正直言ってかなり怖い。真っ青な球体少女が目だけ動かして叫ぶ様は、ちょっとしたホラー映画を凌駕する怖さで大人でも軽く引きます。またこの娘が可愛いから尚さら怖いんだ。僕が子どもだったら多分これ夢に出ます。まぁだからこそ今作の教訓が教訓たり得るんでしょうし、チャーリーの優勝(?)が価値ある物となるんでしょう。

 ただ少々難を言うと、その毒の濃さでは前作『夢のチョコレート工場』には大きく引けを取っています。前作では工場は終始一貫してサイケでシュールであり、その中で働くウンパ・ルンパは本物の小人俳優さんがゾロゾロと演じ、またその歌も怪しげな呪文のような歌であるため、これがもうかなり怖くてゴキゲンだったんです。まぁ当時はCGもなく大作としての予算も取れなかったでしょうから、そこから来るチープさがたまたま毒っ気を増していたってことなんだとは思うのですが、サイケとチープと毒ってやっぱりスゴく食い合わせがいいんですよね。お菓子でいうとジェリービーンズみたいなもので、極彩色でベトついてて明らかに体に悪そうな、何かたまらない雰囲気があったんです。

 また同様に時代のせいでちょっとツラくなったなと思ったのが、オタク少年マイク(ジョーダン・フライ)が小さくされてしまったときのウンパ・ワンパの歌。「テレビは頭を空っぽにするから、家には置かない方がいい」みたいな歌詞はさすがにちょっと前時代的に過ぎる気がして、あそこだけ軽く置いてけぼりを食らいます。増してやそんなテレビの害悪を歌うのがアメリカの大作映画だっていうのが、何ともいえない微妙な気分にさせられます。

 とは言え上記二つの難点は、また物語それ自体を壊してしまうような欠点でもないです。一つ目は毒の代わりにウンパ・ワンパの面白可笑しさが出まくっていますし、二つ目は原作に対する敬意の表れとも言えます。そもそも前作を観たときから是非ともティム・バートンに撮って欲しかったし、バートンが撮るなら是非ジョニー・デップに演じて欲しかった。その期待には充分に応えていただきました。ラストのウォンカの父親のエピソードは原作・前作共にないのですが、バートンお得意の父親エピソードを原作を壊さないように入れ込むことで、バートンなりの、しかも上手に現代化かつメジャー化した「チョコレート工場の秘密」に仕上がっていたと思います。チョコが食べたくなってサントラが欲しくなったんだから、それでもう充分成功なのです。でもピンクの羊毛の使い道だけがどうしてもわからない。

(評価:★4)

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