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[コメント] シン・シティ(2005/米)

面白かったんだけど物語に没入ができない。歯医者の待合室で順番待ちながらマンガ読んでる時みたいだ。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 大概の場合、物語には原因と結果というものがありまして、僕なんかは原因の根が深ければ深いほど物語に己を入れ込み、結果としてのクライマックスに溜飲を下げたり涙を流したりします。その点で観ると今作は、結果部分を原作に忠実に、かつスタイリッシュに面白く描くことには充分成功していると思うのですが、その反面3人の主人公たちの原因=動機の描かれ方が余りにも浅すぎるため、最後までその物語に埋没することができなかったんです。

 例えばマーヴ(ミッキー・ローク)がゴールディ(ジェイミー・キング)と出会うまでにどれほど不遇の日々を送ってきたのかがセリフでしか語られないため、僕らはゴールディから彼にもたらされた数時間が彼にとってどれほど価値あるものだったのかを共感しきれず、結果彼の復讐はあくまで「彼の」復讐として目の前を通り過ぎていきます。ドワイト(クライヴ・オーウェン)とゲイル(ロザリオ・ドーソン)の熱烈な愛情もそうだし、ハーティガン(ブルース・ウィリス)の頑なな正義感もそう。とにかくその理由や過去を一切すっ飛ばして、「この人はこういう人です」という形で物語が始まるから、こちら側は「あぁ、じゃあこの人は僕じゃないんだ」として観始めるしかなくなっちゃうんですよね。

 しかもお互いの物語の登場人物の相関性が「通行人A」というレベルでしかないから、その他人事感は一層強くなります。本来だったら「さっきのあいつがこんなところに!」と燃えるポイントになるべきところが、「あぁ、さっきいたね」で素通りになっちゃう。どうせだったらそれぞれの登場人物にもう少し深く関わり合っていて欲しかったし、それぞれの主人公の目的にどこかで重複性を持たせて欲しかった。全編通して物語が薄っぺらく感じられたのは、こんな辺りに原因があるんではないかと思いました。

 また原作を重視するために上記の展開が不可能であったのなら、せめてシン・シティという「街」にもう少し思い入れを持たせる努力をして欲しかった。シン・シティが「罪の街」である理由、背景、現状、そんな辺りの「原因」もやはり置き去りにされているので、バラバラの物語を「街」によって繋ぐこともできません。この辺りをもっと上手に料理してくれれば、「街という物が持つ大いなる意思」というサーガを紡ぐことも出来た気がするだけに残念。

 これがコミックであれば、読むのに必要となるそれなりの時間が読み手の中に「街への愛着」を生み出し、結果として共感に繋げることもできたんでしょう。だけどこれは2時間という限られた時間の「映画」であり、更にその中で一つの物語に与えられた時間は30分にも満たないわけで、どこかで観客を引きずり込む努力をしないとあっという間にタイムアウトになっちゃうんです。まぁだからこそ限られた時間をみっちりと「結果」を描くことに費やしたとも言えるんでしょうけど、やっぱり派手な外装に比して情念が不足している気がして、何となく食い足りない感想を持ちました。

 とは言えところどころに観るべきところは多くある映画で、マーヴのやり過ぎな拷問や銃を乱射しまくる売春婦たちはかなりご機嫌な映像です。「守った少女が表面的には汚れてしまった」という圧倒的“必然性”があるにも関わらず脱がないジェシカ・アルバは糾弾モノですが、その脱ぎっぷりの悪さにまた燃えたりもするし。何より今まで「モデルの個性でござい」という面構えを見る度に不快にさせられていたデヴォン青木(またこの「デヴォン」と「青木」という名前の組み合わせが何かイヤだ)をして、「ミホ最高!殺人兵器ひゃっほう!」と思わされてしまったというのは僕にとっての完敗です。

(評価:★3)

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