原作未読の僕が言うのも何なんですが、膨大な情報量を誇る原作を映画にまとめるにあたって、その「はしょり方」がどうにも下手クソな気がするんです。要は「あれもこれもちょっとずつ入れよう」になってるせいで、それぞれのエピソードが唐突になったり消化不良になったりしているんじゃないかと。

　例えばオープニングのクイディッチワールドカップ決勝、あれだけ大掛かりな試合開催の合図を見せられれば、こっちだって期待が高まるじゃないですか。それが次のシーンでは試合が終わっちゃってる。ストーリー的にもあそこはクラムのスゴさを見せつけておくべきところなのに、それもないまま肩すかしです。で「あれ？試合は？試合は？」って思ってるところに唐突にデスイーター。説明も伏線もないままの襲撃なので、こいつらが強いんだかも怖いんだかも判りません。ていうか最初は何しにきたのかもわからない。試合前に一言でも伏線張っておけば随分と違ったろうに、のっけから随分と置いてけぼりを食らった気がします。

　これは中盤のドラゴンとの対戦のところでも同様になってて、他の挑戦者の戦いは丸ごとクリアになってるじゃないですか。もちろん時間的問題で省略しなきゃいけないのは判るんですけど、その省略法があまりにもギクシャクギクシャクしているために、「あぁ、ここは脳内で補完しろってことなのね」と気付かされることで一瞬我に返っちゃうんですよ。やっぱりそこはスムーズに補完させて欲しいです。

　また同じく「はしょりの下手さ」から消化不良を起こしてしまっているエピソードもいくつか。その一つがハリーの初恋です。ハッキリ言います。何じゃありゃ。チョウとハリーにいくらかの会話や理解もないまま、結局ただダンスに誘って断られただけ。映画内での帰結を考えるなら決勝の後ででも何らかの会話はあるべきでしょ。「良い初恋でしたね」と思わせるくらいの落とし所は作ってくれないと、観ているこっちが気持ちが悪いです。大体ディゴリー死んでるわけだし、何か話すことあるだろうよ。

　またもっと不満なのが女性新聞記者の扱い。今までのハリーであれば、あぁいう性悪は必ずどこかでヒドい目に遭ってたわけじゃないですか。ハリーの叔父さん一家然り、今作のドラコ然り。それが奴だけは放ったらかし。ていうかいつの間にかいない。やり得かと。書いたもん勝ちかと。

　仲間を売ったデスイーターのカルカロフが、何で教育機関の校長なんかに納まることができてるのかもよく判らないし。大体あいつは結局善人だったのか悪人だったのか。もうねぇ、どれもこれもこんな半端に出すんだったら、いっそのこと全部はしょっちゃった方がマシです。

　結局こういう細かなエピソードの積み重ねが「ハリー・ポッター」の世界を構築してきたわけで、決してクライマックスだけで成り立ってる映画じゃなかったわけですよ。そこの力加減を間違ってる上に手法も間違っちゃってるから、クラムにしてもチョウにしてもキャラクターがキチンと立っていない。もっと言えばロンのハリーへの不満や、ハーマイオニーのクラムに対する感情すらもシンクロできるようには描かれていない気がします。

　とここまで書いておきながら何が「まぁ面白かった」のかと言えば、それは「ハリー・ポッターの世界がまた観られたから」。だけどそれはお馴染みのキャストや見慣れた景色による効果であり、今作はこの世界をキチンとこちらには届け切ってくれていません。実は僕が観たいのは授業のシーンや変な小道具、不思議な生き物だったりするわけで、その辺に関して言えば決して満足できるほど描こうとはしていない。ただ前3作で培われてきた空気をまた吸えたってだけなんです。これでは正直「遺産の食い潰し」です。

　とは言えもちろんダンスパーティのシーンは楽しかったし、最後の対決はそれなりに興奮して観ることもできました。だからこその★3ではあるのですが、やっぱりこれだけのヒットシリーズ、これだけの大作。こっちだって楽しみに1年とか待ってるわけなんだから、物語はもっと綺麗に紡ぎ上げてほしいなぁと思ったわけでした。