僕がエヴァンゲリオンのリメイクをすると聞いて最初に考えたのは、「やっと真っ当なエンディングが観られるのかな」ってことだった。支離滅裂だったテレビ版、観客にうんこを投げつけた映画版。僕の中には「もしテレビ版の頃の庵野秀明が潤沢な資金と限りない時間を有していたら出来ていたであろう本来のエンディング」というものの存在が、うすぼんやりと引っかかっていた。もちろんそんなものがあり得るのかどうかも、少し怪しいのだけれど。

　ただ少なくとも今作がそのクオリティ（要はちゃぶ台をひっくり返さないこと）を目指しているのだとすれば、今回の「序」は、テレビ版と全く変わらないものを持ってきてもおかしくはない。というかむしろ正しい。何故ならテレビ版の頃から、前半は圧倒的に面白かったからだ。わざわざここを変える必要なんか何もない。そう思いながら劇場へ向かった。

　事実僕が目にした作品は、本質的には以前と変わらず、でありながらさまざまな部分でグレードアップを遂げたエヴァンゲリオン=ヱヴァンゲリヲンだった。暗闇の中で緑だけがボンヤリと光る初号機は超カッコいいし、使徒はドエラく強そうだ。ヤシマ作戦の熱さと言ったら半端じゃない。正直興奮した。

　だけど“本質的には以前と変わっていない”んだ。そしてその本質＝テーマだけが現代についてきてないんだ。この違和感は予想外だった。現代風の綺羅びやかな衣装を着込んだ10年前の物語。シンジがいくら「僕はいらない人間なんだ」と叫ぼうと一向に寄り添うことができないのは、僕が30代になったからじゃない（事実僕は前作を一昨年に観ている）。2007年という時代が抱える心の病は、「必要とされるかどうかの葛藤」なんて中途半端な位置ではなく、「不必要であることに慣れ切ってしまっている」または「必要とされることを当然だと感じてしまっている」というもっと振り切れたところにまで到達しているはずなんだ。グラフィックが美麗になればなるほど、むしろその溝は大きく際立っていく。

　もちろんこれは一作目なので、展開はここから大きく変貌を遂げていくのだろう。事実ラストでは以前と全く違う物語が予告されていた。だけどさ、物語スタート時の展開が「僕はどうしてここにいるんだろう」になっちゃってる以上、テーマ的にはお尻もそこに沿ったものになる気がするんだよな。どんな謎が増えようと、どんなCGを駆使しようと、シンジの内面の物語はあそこにあるんだ。そしてハッキリ言うともうそれ興味ないんだよ。

　物語の中で、シンジがウォークマンを延々と聞くシーンが何度か登場する。オートリバースをアップで描くことで、シンジの「音楽を聴きながらも音楽を聞いていない」心情が描かれる。外界を遮断できるのなら何でもいいという、シンジの内に籠った心理描写だ。だけど教室の机全てにパソコンが置かれている時代に、「どうでもいい」という理由でカセットを聴く奴はいない。今の14歳はカセットテープなんて知らないに等しいはずなんだ。もしそんな奴がいるとしたら、親の代からよっぽど物持ちがいいか、カセットに異常なこだわりを持つオーディオマニアだ。そこには本来なくてもいいはずの妙な違和感が残る。

　もちろんこんなことは小さなことで、それが物語に大きな影を落としているわけじゃない。だけど庵野は「心理描写のために敢えてカセットを残した」ようにも見える。物語の同時代性よりも「内に籠るシンジを描写する」ことを選択したってことだ。でもこれってカセットじゃなくてもどうにか出来るはずだし、それをどうにかするのが現代の作家なんじゃないかと思う。

　ここを「それほどまでに14歳の心理描写を大切にした」とするなら、その「10年前の14歳の心理」が現代において何の価値があるのかってことになるし、「前作のディティールを重視した」とするなら「じゃあそれは本当にただのリメイクだね」ってことになる。この辺りの妙な立ち位置が、そのまま前述の本質問題と重なって、「このリメイクに何の意味があるのか」という大きな違和感を作り出しているように感じた。

　実はミサトがイヤがらせのように口にする「ちょっち」もこれと似たような違和感があるんだけど（正直「また言った！2007年になってもまた言ったよこの人！」って思った）、こっちはたぶん「裏返ったファンサービス」だと思うのでまぁいい。上記の問題に加え、次作で遂に「パーペキ」なんて言葉が出てくるのかもと思うと、正直不安は増すばかりだ。