コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] クローズ ZERO(2007/日)

臭くない!これ三池臭くないよ三池さん!
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 これはあくまで僕の三池崇史への偏見ってことでご容赦願いたいんだけど、この人って上手に映画を撮る腕を持っていながら常に「本気じゃないですよ」「本気じゃない辺りカッコいいでしょ」的な下らない逃げを打って斜に構えるところがあるじゃないですか。しかもその「斜に構えたカッコ良さ」なんてのは実は80年代の遺物でしかないのに、それをまるでオリジナル且つ時代の最前線であるかのように振る舞うもんだからいつも臭くて鼻が曲がるんだよ。今作で言えば屋上での人間ボウリングのCGとか、芹沢(山田孝之)のバイクのブレーキが壊れた時に「ぴょいーん」みたいな効果音を被せるところとか。何かね、映画の力を全く信じてない気がするんだよ。

 ただ今作に関して言えば、そうは言ってもその三池臭はかなり薄まっていたように思う。そして残ったのが三池本来の上手さってことになるんだ。ヤンキーバイオレンス好きのツボを綺麗に突いてくれる上手さ。これがいいんだよ。源次(小栗旬)率いるG.P.S(「源次・パーフェクト・制覇」っていう頭の悪さがまたたまらない)が雨の中続々と集まってくるところとか、「貧乏人」って言われた芹沢が「貧乏人は強えぞ」なんてサラっと返すところとか。キメるべきところでビッとキメてくれるから興奮するのよ。興奮するの。

 また小栗旬の佇まいがいいんだ。映画始まるまでは「小栗旬がヤンキー役って。けっ、この甘ちゃん小坊主が」とか思ってたんだけど、ホント申し訳ない。胸がバックリ開いた短ランとか超カッコいいです。あと岸谷五朗の病的に落ち着きない感じとかも良かった。途中から芹沢軍団入りする兄弟を演じた伊崎右典伊崎央登の双子もかなりブッ飛んでて、『デビルマン』の呪縛を抜けたんだか抜けてないんだかわからないところが大変味わい深かった。人に歴史ありだ。

 もちろんだからと言って三池がこの映画に対して本気になってんのかと言えば答えは否だ。主要人物のセリフはベタで薄っぺらいし、心情だってまぁ大変に上っ面。黒木メイサの歌はタイアップと言い訳とおふざけが入り交じったいつもの逃げだ。伊崎(高岡蒼甫)のG.P.S入りの経緯とか矢崎(遠藤憲一)が最後に見せる優しさなんてのは甘々もいいとこで、もうやる気がないとしか思えない。適当過ぎるだろ。ちゃんと仕事しろ。

 結局のところ、今作はたまたま三池が活かされやすい題材で、更にたまたま三池臭を出しづらい環境だったってだけなんだろう。僕は三池が一番得意なのは「“それっぽく見せる”という作業」だと思っていて、今作は正にそれがそのまま、三池的な照れや衒いもかなり抑えて提供された作品になっている。そしてそんな衒いがないのは、“それっぽく見せる”べき対象が「ヤンキー」という三池も安心できるお得意の題材だったからなんじゃないだろうか。

 大人の視点から見てしまえば、ヤンキーの美学や抗争なんてのは非常に底の浅いものだ。でもだからこそ、そんな底の浅い世界で本気をまき散らす彼らにはたまらなく光を放つ瞬間が宿る。だって黒づくめの少年たちが「A組がどっちについた」だの「E組はどう動いた」だの本気で大騒ぎしてんだよ。可愛いじゃないか。カッコいいじゃないか。クラス編成なんて春休みに先生が決めたことなのに。この辺りの薄っぺらくも可愛げのあるカッコ良さが三池の持ち味に非常にハマっており、また僕個人の好みにも大変にストライクで、結果大変に気持ち良く観ることができた次第です。俺も鈴蘭制覇する!って思ったよ。あとリンダマンの本名が林田なのはホントよくデキてる。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)ペペロンチーノ[*] きわ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。