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[コメント] クローズ ZERO II(2009/日)

ガキ帝国』より爽快で、『岸和田少年愚連隊』よりハッタリにまみれ、『パッチギ!』よりも直球で、何より『ビー・バップ・ハイスクール』よりちゃんとしている。これは僕が観たかったヤンキー映画だ。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この2009年を迎えるまで、日本映画界は僕らヤンキー映画好きに冷たかった。映画という成熟したジャンルは、彼らの抗争にさえ何らかの意味や価値を見出そうとする。それは虚しさだったり懐かしさだったり、まぁとにかくそんな人生訓的な“何か”だ。だけど僕みたいなヤンキー映画好きは実際のところそんなものは全く求めてなくて、じゃあ何が観たいのかって言うとただひたすらに「カッコいい抗争」が観たいだけなんだ。短ランにボンタンでトサカ頭が「俺が行くっかねーだろ」みたいな映画。彼らの世界でしか通用しないカッコ良さを疑いもせずにカッコ良くあろうとする、そんなヤンキーのダサカッコ良さが溢れ出してくる映画。だけど過去にそんな直球のヤンキー賛歌を歌い上げてくれたのは、あろうことか「ビー・バップ・ハイスクール」だけだったんだ。『デビルマン』でお馴染み「映画が作れないのに映画を作っている」那須博之・那須真知子夫妻の手によるあのシリーズだけだったんだよ。つまり僕らヤンキー映画好きは、今の今まで「100点満点中50点のヤンキー映画」までしか観たことがなかったんだ。80点以上のヤンキー映画なんてこの世に存在しないと思ってた。その不遇さには涙を禁じ得ないともっぱらの評判です。

 前作『クローズZERO』は、そんなヤンキー映画好きの溜飲を下げてくれる映画だった。ただこの作品にはあれこれと怠惰な不備が多くて、決して手放しで世間様にお届けできるヤンキー映画ではなかった。わかりやすく言うと70点くらいのヤンキー映画で、それでも過去を振り返れば前人未到の地に辿り着いてるっていう、そんな映画だった。そして今作、日本ヤンキー映画界は遂にまだ見ぬ地平へと辿り着いたんだ。ヤンキーが2時間の間ちゃんと隙が無くヤンキーしていてダサカッコ良い。しかも他校と全面抗争とかしちゃうんだよ。もう最高だ。こういうのが観たかった。ホントこういうのが観たかったんだよ。

 鳳仙で源治の元に集まってくるGPS&芹沢軍団連合も最高だし、『死亡遊戯』さながらに屋上を目指して行くクライマックスも最高だ。こういうベタなシーンに過剰に反応するのってホント頭悪いと思うんだけど、もう仕方ないよ。ベタって破壊力あるんだ。しかもそのベタを真面目かつ大仰にやってんだから、その荒波にはそうそう逆らえない。

 それにシチュエーションだけじゃない。各キャラクターの多彩さも大変に良い。あれだけの人数の幹部たちを、2時間という枠の中でちゃんと描き分けている。だからこそGPSと芹沢軍団の連合に意味が生じるんだし、校内1フロアごとの対決構造に物語が生まれるんだ。芹沢の拾い食いも良かった。戸梶のツンデレも良かった。鳴海の侠気も漆原のシャープなパンチも的場の金歯も良かった。ちなみに僕一番のお気に入りは三上兄弟。前作でも端の方で大変に良い味を出していたんだけど、今作はそれをそのままにド真ん中に飛び出してきた。「ビー・バップ」の那須監督が撮った「デビルマン」主演で大コケした伊崎右典伊崎央登兄弟。江戸の仇を長崎で討つっていうのはこういうことだ。彼らの無駄口の多くがアドリブだったと聞いて、何だか心が暖かくなったよ。三上兄弟ジャージ超欲しい。

 源治は屋上の最上部に自分の名を記す。鳴海は屋上で源治を迎え撃つ。彼らにとっての屋上は、彼らが目指す“てっぺん”の象徴だ。屋上という空間にのみ許された自由と開放、それにこそ彼らがてっぺんを目指す理由がある。原作の流れから考えると、残念ながら源治は最後までてっぺんには到達できない。だけどこの映画は、少なくとも僕にとってのヤンキー映画界ではてっぺんにいるよ。彼らが卒業したのが大変に寂しい。日本ヤンキー映画界に幸あれ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)林田乃丞[*] づん[*]

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