[コメント] ベスト・キッド(2010/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
という段階でこの映画は既に成功してしまっているわけで、そりゃジャッキーが『ベスト・キッド』って段階でもうつまらない理由が何一つない。こんなもん面白く作るなって方が無理だよ。
と思いながら劇場へ行き、思った通りにウヒャウヒャと面白かったんだけど、どうもこの映画、それだけで終わっていない。何て言うか、ところどころが非常に繊細で、「俺もワックス塗るぜひゃっほう!」と思わされた前作に比べ、「やっぱり大事なのは信じる心よね」みたいなちゃんと真摯な作品になっている。そもそもがかなり大味であるストーリーラインに対し、各々のエピソードの描き方がちゃんと豊かなんだと思う。
例えば中国人少女メイの両親。以前の映画であれば「良家のやたらと厳しい親」で終わってしまう存在の彼らが、今作では実は「理性的な視点を持った親」であったことが明かされる。既存のフォーマットに則って映画を見ている僕らは、その「当然あって然るべき親の在り様」にちょっと驚く。
ジャッキーが泥酔する理由もそうだ。彼は「妻子を事故に追いやったこと」より「口論の理由が思い出せない」ことを嘆く。この僅かな踏み込み、「あぁ、そういうものかも」と思わせる小さな踏み込みが、単純明快な物語に少しリアルな色を付けてくれる。書けばつまらんことだけど、こういうところがちゃんとしている映画はとても幸せだ。
だからこそ僕らはジャッキーとドレの無言の鍛錬、年の離れた男同士の傷の舐め合いに心底シビれるんだ。メイから無視されるようになり、もはや訓練の理由さえ曖昧になってしまったのに黙々と練習を続けてきたドレ。それでも前を向く彼にカンフーを教え、と同時に前を向くことを教わるジャッキー。僕らの視点はここを覗き見る母の隣にいる。「ね、お母さん、ハンさんに任せておけば大丈夫ですよ」的な、弩級の、そして何故かちょっと自慢気な安心感だ。もうねぇ、超気持ちいいよこれ。
またメイ役の子が大変にブサ可愛くていいんだ。バイオリン弾いてるときなんて平家ガニみたいな顔してんだけど、影絵小屋でのキスシーンの彼女のとまどった笑顔には、普通に卒倒しそうになった。「僕がこの子を幸せにする!」と思った。このキャスティングは絶妙だ。あとエンドロールで「ジェイデン・スミスといじめっ子役の子が仲良しだ」という写真を執拗に出してくるのも、僕らの「この子悪役なんかやって大丈夫かな」といううっすらとした不安を拭い去ってくれている。とにかくあれもこれも行き届いてる。行き届いているからこそ、安心しながらワクワクキュンキュンできるんだ。
もちろん気になった点だってある。贅沢を言えば、クライマックスの決め技はCGでなく生身の技にしてほしかった。あそこで「あぁ、これやっぱウソかぁ」ということを突然叩きつけられた気がして、立て直しにちょっと苦労したりした。
でもまぁいいよ。「ベスト・キッド」を観に行って、「俺も上着を着たり脱いだりする!」ではない、より真摯で前向きな感想を抱かせていただいたんだから、それくらいは我慢する。とにかく大切なのは信じること、そして前を向いて努力することだよ。僕もそれを心に刻んで、明日から上着を着たり脱いだりするよ。あと泉の水を飲んだりする。カンフーばんざい。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (16 人) | [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。