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[コメント] 犬神家の一族(1976/日)

興味が謎解きよりも画面そのものに向いてしまうというのは推理モノとしてはどうかと思うんだけど、映画としては素晴らしいことなのです。それくらい濃密で濃厚な2時間半。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 もう犯人が誰だっていいんです。次に誰が死ぬとかどうでもいい。そんなことよりも今目にしている映像や俳優の表情が面白い。次にどんな絵が出て、どんな顔を見せてくれるのかが気になる。まぁこれはもちろん極端な話で、実際は当然「佐清も死ぬのかな。死ぬのかな」なんて思いながら観ていたわけなのですが、とは言え「今のこの瞬間の画面」の方が物語自体より面白かったのもまた事実だったりします。

 映画における「小説的な部分=脚本、原作」というものと「映像的な部分=絵作り、演技」というもの。これを敢えて分けて語らせてもらえるなら、今作においては映像的な部分が明らかに小説的な部分を凌駕しているように思います。それは絵作りや演技だけじゃない。カット割りや間など、映像的というより最早「映画的」なものが、「物語」を越えた面白みを出してしまっているんです。

 実際ラストで明らかになる犯人なんて「あっ!」と驚く程のものではない。人の業や刹那さは強いけど、謎解きはそこまで爆発的なものでもない。それよりも佐清のラバーマスクの口の動きをもっと観たい。喋りまくる三姉妹をもっと観たい。遠景を走り抜ける金田一をもっと観たい。何より坂口良子をもっと観たい。あ、今作の坂口良子はちょっと神懸かり的に可愛いです。関係ないけど。

 とにかくそういうわけで、今作は「映画を構成する上での映画的な要素たち」が、映画における根幹であるはずの「物語」を上回ってしまった希有な作品だと思います。ラストの謎解きの面白みを遥かに越えて、とにかく画面が濃密なんです。もちろん物語無しには映画は成り立たないですし、今作自体非常に優れたお話であることも重々承知しています。それでも尚、僕には何だか文字というメディアに映画が勝利したように思えてしまい、ちょっと勝手に誇らしくなったりしたのでした。いや、別に僕が作ったわけじゃないんだけどね。

(評価:★4)

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