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[コメント] 死ぬまでにしたい10のこと(2003/カナダ=スペイン)

映像やそれが醸し出す空気は優しく、重たいテーマにも関わらず雰囲気は心地よい。映画としての主題が「今という時間を大切に生きよう」であるとするなら、その表現は充分できていると思うが、良くも悪くも御伽話的に過ぎる気がする。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 彼女が掲げた「死ぬまでにしたい10のこと」、彼女はその全てを死ぬまでに実行できたわけではないのですが、できなかったことを見てみるとそれほど問題のないことばかり。髪形を変えるとか海に行くとかだもんね。それに対して「夫以外の男性と恋に落ちる」とか「子どもたちの気に入る母親を探す」とか、そうそう叶いそうもない願いはしっかりと、しかもかなり「簡単に」叶っちゃったりしてます。

 振り返って考えると、この映画における「余命僅かと宣告される」不幸の裏には、「やり残したことを考え実行できる時間を与えられている」っていう幸運(不幸中の幸いというべきかも)が潜んでるんですよね。現実には病が発覚してから為す術も時間もないままに死にゆく人もたくさんいて、そういう人たちに比べると彼女が死に向かう道はあまりに幸運に満ち溢れている。実はそれこそがこの映画の優しい雰囲気の肝となっている部分であり、だからこそ「「今を大事に」という教訓を伝えるための御伽話」なんだなぁと思ってしまうわけです。「御伽話」じゃなければ「夢物語」といってもいいかな。優しく暖かくストレートだけど、現実からは少々乖離している。

 彼女が死を受け容れるまでの過程が非常にあっさりとしているのも同様です。本来なら「10のこと」を書くまでに大変な葛藤と苦しみがあるはずなんですけど、そこは物語にとって重要ではない部分だから少なめに語られる。シンデレラが継母の家に住んでいる「事情」は、シンデレラの物語にとってはどうでもいいことなんです。仮に「現実というのはかくもあっさりとしたものなんだ」ということだったとしても、それはそれでもう少し描かれて然るべき部分な気がするし。

 まぁ2時間前後という限られた枠の中で「どう生きるか」なんて壮大な問題を語ろうとする以上、どこかに多少の不足部分が出るのはある程度やむを得ないことだと思うし、その弱点を補うための方法論としては決して悪くないとは思います。ただ(死ぬからという理由だけで浮気を試みる「簡便なウットリ感」も含め)その御伽話感により、心に訴えかける力はどうしても弱まってしまっている気がします。

(評価:★3)

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