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[コメント] ミツバチのささやき(1972/スペイン)

わたしが妖精だったころ。アナ・トレントは信じる力を与えてくれた。
ALPACA

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







わたしが映画少女だったころ。この映画は映画雑誌よりも、ファッションやアート雑誌で多くとりあげられいた。しかし、どんな雑誌でどんな有名な評論家が書いていることより、わたし達の方がこの映画の秘密を知っていた。

きまってこの映画の解説に書かれていた「少女から大人への通過儀礼」という言葉を見るだけで、わたし達は「いやはや」と言い合った。 ただただ、わたしたちは、この映画で起きた事件をそのまま、思いつくままに言葉にするだけで、あるいは思い出すだけで酔うことが出来た。

映画を観るということ/ミツバチたちの働き/犯罪者の脳を持った怪物と少女/愛する男の人へ手紙を書く母/ミチバチの研究をしながら詩を書いて眠ってしまう父/怪物と少女の死が理解できない/フランケンシュタインも少女も精霊なの/村のはずれで精霊をみた姉/人体標本に目を入れるわたし/死んだふりをする姉/猫をあやしながら首をしめ、その傷から出た血で唇を赤く染める姉/美しくもあらかじめ死ぬ運命である毒キノコをつぶす父/《そう。父親はそうなのよね。そして、母親もそう。などとわたし達は思い出すたびに、うなづいた。そして、もっともっとこの映画にはある秘密を思い出す》/線路に耳をあてて来る音を聞く。わたしは姉よりそこから離れずに見ている/精霊がいるという廃屋と井戸。石を落とす/戦場からの逃亡者であり精霊でもある男に会う/食料などを精霊に渡す/父の時計を男に渡してしまったことから父がアナの秘密を知り、アナは精霊が殺されたことを知る/《そこが時計なのよね。つまり、時間に縁がないアナが時を刻む時計の持ち主を移す。ということ。そういえば、アリスも時計が鍵よ。そしてここから映画はキラキラしはじめるの》父から逃げるアナはそこでフランケンシュタイン=精霊と湖で遭遇/翌朝家族に発見される/ショックのアナを心配な姉/もとに戻るのかと心配する母は手紙を焼く/いつもの詩を書いている父とその寝てしまった方に毛布をかける母/そして、窓をあけ、精霊をよびこむアナの顔/《どんな映画雑誌や批評かも具体的に説明してくれない(できない)この映画の良さを、わたしたちはただ場面を説明するだけで充分だと知っていた。そして疑問に思うだけで充分なのも知っていた》父親がガラスのハチの巣でみようとしたものって/唇に血を塗る姉は初潮をしっていたの/ミツバチを眺めるアナというのは、アナも父もそして、母も姉もみんな/映画、フランケンシュタイン、少女、精霊、毒キノコ、ミツバチの巣、時計、人体標本の目、線路と心臓にあてる耳、、《わたしたちは思い出すものをひとつづつ大切にあげていった。そしてそのどれもが永遠に輝いているものだと信じていた》

そして、映画館で観るだけで、ビデオやTVで一度も見なかったくせに、プレステ2を買ってしまったわたしの初映画DVD上映記念に『ミツバチのささやき』をかけた。だけど、始まるや否や、そこには色もサイズも縦横比率も全然違うと文句をたれるだけではない。そこには、昔のこのフィルムに熱中していたわたしの気持をなぞるだけだった。

このビクトル・エリセのDVDボックスこそ、キレイなリボンで結わいて、庭に(本物はないけどさ)穴を掘って埋めるべきかもしれない。そうすれば、何年かあとにまた思い出して掘り起こすかもしれないし、何年かあとに忘れたところで見たこともない木が生えてくるのかもしれない。

(評価:★5)

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