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[コメント] ブラックホーク・ダウン(2001/米)

正しい戦争というものが存在しないと同じように、リアルな戦争映画など存在しない。                                          映画館を戦場の片隅とさせた映画。
ALPACA

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







リドリー・スコットは、ハリウッド映画の大作を任されうる、巧さと映像美の両方を持っている監督だ。そして、それを期待して劇場へ出かけた者にとっては、瞬く間にその手腕にやられる。

あい変らずの気取ったオープニング。そして、混沌としたキャンプから、出撃する前の緊張感。しかし、その緊張感やら混沌という言葉は戦場に戦士達が舞い降りた瞬間から、未だかつてない。だの、未曾有の。という数多の戦争映画でも体験したことがない劇場での臨場感に慄く。

そう。間違いなく。映画を見る者に、「そこにいさせる」。今までの戦争映画で使い古された「リアルな」という形容詞は、この映画を前にしては、ひれ伏さざるをえないだろう。

そして、映画はどこまでも、どこまでも、戦場を作り出す。それは、ドラマツルギーが殆ど排除された、ただただ銃弾と死への恐怖を体験させる。そしてまたそれを決して単調にさせない巧ささえ、この映画は持ち合わせている。それは、実写を主体とした、ハリウッド映画の到達点とも言いえるくらいの技術の粋を使った見事な。。

と、陶酔と感心をしながらも、この意図的ではあるだろう、ドラマの欠乏ぶり、主張の排除されぶり、に次第に息苦しくなる。どれだけ臨場感ある戦場を再現させることに意味があるのだろうか。殺人をどれだけリアルに描くことに終始させても、果たして生と死を真摯に考えさることができるのだろうか。

リアルな戦争映画というものは、追求していけばいくほど、矛盾に向かい合う。それは所詮映画だからだ。そして、そこに全てを注いだかのようなこの映画は、ただただ、空虚な騒音に包まれていただけのことを、ハリウッド映画的な幕ひきとともに知らされる。

そもそも、戦争とは、そういうものなのかもしれないが。

わたしにとって必要な映画は物語と主張を持ち合わせた映画なんだ。と逆に教えてくれた貴重な劇場体験だった。

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-------------アメリカでこの映画に関わる興味深い報道があったので、当初「あらすじ」に載せていたのですが、内容が相応しくないと思い、こちらへ。----以下は映画へのコメントではありません。映画はスクリーンで映った映画としてだけを上へコメント。-----------

2002年1月末のNBCの報道によれば、ブッシュ大統領の年頭の「一般教書」の演説から、ソマリアへの武力行使への言及が外された。その要因の大きなひとつに、この映画の公開が関連されているとか。反戦映画のようでもあり、この時期にソマリア「へは」派兵させたくない。という世論捜査の役割をこの映画は果たしたのか。

そして、 この1993年10月のソマリアの首都モガジシオの市街戦に加わった戦士二人が、「偶然に」この映画が公開されている劇場で再開し、8年ぶりの再会が行われたとか。アメリカ軍の大きな協力のもとというのは、映画製作だけでなく、ここまでも、フォローしてもらえるというのだが。。しかし、それがソマリア以外のカードを見せるための道具に使われたことではないことを遠く日本から願うも。。何れにしろ、この映画も『パールハーバー』のジェリー・ブラッカイマーがさらに映画作りに巧みになった作品だ。

(評価:★3)

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