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[コメント] 家路(2001/仏=ポルトガル)

死別悲嘆を描いたのではなく、日常生活での精神的疲労を描いたとすると納得できる小品。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 冒頭の身内の死という出来事への悲嘆が映画の内容に大きく関わるのかと思いきや、そうではなかった。舞台袖にその出来事を伝えようとする人が待機する中、舞台は続き、しかもその舞台は老いや死をテーマにしているのにだ。死別悲嘆の感情を描くという意味では、この映画はあまりテーマを追求しきれていない。

 しかし、疲れ切った日常に安らぎを求め、家へと帰る話だとするとその感情はしっかり描かれていると言える。ジョイスの「ユリシーズ」へ代役で出演することになったが、英語で演じたり準備期間が少なかったりで失敗も多い。ジョン・マルコビッチ演じる監督は、あの「ユリシーズ」を映画化するくらいの監督であるならば、当然巨匠と呼ばれるぐらいの域に達した監督であろうと予測でき、その彼との仕事は断ったテレビドラマの仕事より余程価値のある仕事だろう。しかし、そこに満足感はない。むしろ「家へ帰りたい」という台詞が似合うほど疎外感が感じられる。身内を失ったあと、日々の出来事や仕事において、小さな変化があった故の疲れが出たのではないか。その些細な感情を静かなタッチで淡々と描いていると思うと、なんとなく納得できる。

 現役最年長監督の肩書きを持つ老人オリヴェイラ。この映画で描いた“疲れ”は彼自身の感情も反映しているのではないかと思える。

(評価:★3)

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