コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] サマリア(2004/韓国)

キム・ギドクは恐ろしい監督だ。異質な臭いを序盤から漂わせ、じっくりじっくり恐怖を植えつけていく。あまりに異質で、不穏な感覚を残す映画である。(2006.04.17.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 蛇行する車、タイヤが地面に埋まり前へ進めなくなる車。キム・ギドクらしい風景を生かしたラストシーンを見ていて僕が感じたのは、これは負の連鎖に翻弄された人々の救いなどない生き地獄が描かれているのではないか、ということだった。

 確かに、チェヨンへの罪の償いとして自らも売春へと走るヨジン、ヨジンの売春への煮えたぎる思いから犯した殺人という罪を自白という形で償うことを自ら選んだ父親、と一種の償いの物語という側面もあるかと思う。

だが、その償いの結果が何を生んだかと思うと、そこには悲惨な結果が他人にもたらされただけだ。チェヨンへの償いの行為であるヨジンの売春は、彼女の父親の狂気を生んだ。父親の償いとしての自白という行為は、ひとりで生きていくことを余儀なくされたヨジンへの優しさとは言えない。

ヨジンが運転した車のように彼女の人生は蛇行を続け、足元を取られたならば協力してその状況を打破しようという人物もそこにはいない。彼女はこれからも売春を続けていくことになるようにも考えられる。負が連鎖して連鎖して、それは正の方向には決して向かないのではないか。ひとりになったヨジンの人生に、僕は闇が見えた。

ヨジンの視点と父親の視点それぞれで、じわじわと心理を刺激してくるその恐ろしさ。そして「ソナタ」におけるギドクならではの風景に頼る描写が生む緊迫感が恐ろしさを助長する。『春夏秋冬そして春』で極致へと達したギドクだが、彼はまだまだ恐ろしい。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)セント[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。