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[コメント] 空中庭園(2005/日)

角田光代の原作と似ているようでもあり、違うようでもある。最大限に原作の持ち味を生かしつつ、映画だからこその表現でアプローチされた秀作。原作読者にとってはストーリーに収穫はない。しかし、映画として良かった。(2006.02.18.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 女性ならではの視点で主婦の悩みや女の友情を見事に描いた「対岸の彼女」で直木賞を受賞した角田光代と、『青い春』『ナイン・ソウルズ』と立て続けに突き刺さるような男性的映画を作った豊田利晃・・・。

この組み合わせはピンと来なかった。似ても似つかないように思えた。しかし、豊田利晃のこの映画は、意外にも角田光代の原作を見事に生かしている。そして映画単体として非常に良質に仕上がっている。原作に含まれる秘密だらけの家族の裏の顔という“毒”の部分を見事に抽出してきた。この“毒”が共通する部分だったのかもしれない。

しかし、似ているようでもあり、違うようでもあるのが、映画自体の長所だと思う。

 原作を読んでいると、浮遊感のある描写という点では確かに共通しているかのように感じるが、同じ“浮遊感”でも小説と映画では全然印象が違った。

小説の場合は、角田光代の書く文章から頭の中に浮遊感が思い描かれた。それは日常的でもあり、ファンタジックでもあった。映画の場合は、目に見える形で浮遊感を提示。左右に揺れるカメラが映し出した映像や、マンションの一室の様子だったり・・・。『空中庭園』というタイトルのイメージがそのまま映像にあった。

ただ、原作で思い描いたイメージとは随分と違った。あの団地は生活費が大変だという家庭が住んでいるようには思えないほど高そうだし、ホテル野猿にしてもすごく人工的に思えた。だが、映像の中ではそれらがイメージとしてきちんと“浮遊感”を作り出すに至っているのだ。これがまさに映画ならでは。映像表現をきちんとしている。映画の中の「空中庭園」がそこにはしっかりと存在していた。

 映画が良かったと感じたのは、原作をきっちりと生かしつつ、映画ならではの描写で見せ切ったからだ。小泉今日子大楠道代鈴木杏板尾創路ソニン、という絶妙なキャスティングもそうだし、ミーナ先生とさっちゃんの誕生会での長回しが生み出す恐ろしさすら感じる緊迫感もそう。そして、血の雨を豪快に降らせたのもそう。

「幸せそうに見える家族も秘密だらけで崩壊寸前、しかし家族の絆は消えず、そこには暖かさがある」というメッセージは小説も映画も変わらないのに、映画ならでは、豊田利晃ならではの部分がちゃんとある。

 やや批判的な言い回しをすると、原作以上でも以下でもない。だが、これは映画である。秀作。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)林田乃丞[*] セント[*]

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