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[コメント] さくらん(2007/日)

蜷川実花が写真家として発揮しているセンスを、映像でも発揮できただけでもデビュー作としては上出来に思える。それを生かして、次は“物語で描きたいテーマ”を見つけきてほしい。(2007.08.09.)
Keita

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 蜷川実花はおそらく、そこまで映画に思いを持っているわけではないのだろう。それがこの作品の一番の問題なのだと思う。

 これがデビュー作と考えると、写真家としての個性をそのまま映画に取り入れ、世界観を構築できただけでも、ある種の作家性は垣間見れる。吉原の遊郭を舞台にした安野モヨコの漫画を原作に、ビジュアルが光る極彩色ファンタジーを作り上げた。要素は原作と変わらないが、漫画は基本的にモノクロの世界。それにただ色をつけるだけでもセンスが問われるもの。やはり色彩感覚の鋭さは、蜷川実花ならではなのだ。

そういった映像美の追求は成功しているが、残念なのは「写真集を見ている」という感覚が拭えなかったこと。これは、まだ映画監督・蜷川実花にはなりきれなかったということなのだろう。

 では、蜷川実花が仮に今後も「映画を撮りたい」と仮定して、どうすればより成熟できるのか。きっと、物語として描きたいテーマを探すことなのだと思う。

さくらん』は、作り手が何を語りたいのか、最後まで伝わってこなかった。どんな絵を撮りたいかは伝わってくるのに…。それこそ、ビジュアル面が先行してしまっている証拠であろう。

物語展開としては、ある程度まとまっている。退屈な映画というわけではない。しかし、その感じこそ、主張のなさにも思える。

例えば、比較対象として名前が出るソフィア・コッポラの場合、一貫して“疎外感”を描きたいという主張があり、それに基づいて映像も構築される。『マリー・アントワネット』の派手な宮廷生活も、『ロスト・イン・トランスレーション』の憂鬱な東京の夜景も、“疎外感”を描くためのツールだった。

では、蜷川実花の場合、カラフルな遊郭の映像を通して、土屋アンナ演じるきよ葉の何を描きたかったのか。

ラストシーンのように外へ出る開放感を描くにしては、外に出た桜の風景は、遊郭の中よりも地味に思え、爽快感に繋がらない。安藤政信への思いより、成宮寛貴への思いが強かったように錯覚してしまう部分もある。序盤から描写に抑揚をつけず、なんとなく描いてしまうと、主題が見えないから、伝えるべき部分が伝わらないのだ。

 だが、蜷川実花の美的センスは間違いなく高いのだから、何か描きたいテーマを見つけて、それを込めた映画を作ってほしい。そうであれば、次回作も観たいと思う。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)林田乃丞[*] 水那岐[*]

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