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[コメント] アリス・イン・ワンダーランド(2010/米)

ビジュアルクオリティだけである程度は楽しめる映画なのだが、文句を言い出せばキリのない映画でもある。バートン×デップ×「不思議の国のアリス」で起こるはずの大きな化学反応が、ほんのちょっとしか起きなかった作品に思える。(2010.05.06.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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別にとてつもなく退屈な映画であったわけでもなく、アトラクション的な映画としてある程度楽しみながら鑑賞はしていたのだが、いざ感想を言うとなるとどうにもこうにも批判的な意見しか出てこない。最低限の良いところはしっかりあるのだが、それを打ち消すような悪いところがたくさんあるのかもしれない。

「不思議の国のアリス」というルイス・キャロルによる誰もが知る物語を下敷きにしながら、少し成長したアリスの物語ということでオリジナル要素が多く盛り込まれている。そういった名作のアレンジに関しては、ただ原作通りに映画化するよりも試みとして面白いので、特に異論はない。けれど考え方として甘いなと思ったのは、劇中の登場人物は「あのアリスだよね? 違う?」と過去にアリスとの出会いがあったことを仕切りに強調すること、なのだ。

「アリスのストーリーは有名だから当然知っているよね?」というのは、一種の奢り。もちろん知っているんだけど、劇中の人物と過去のエピソードを共有していたわけではないので、意味は理解してもどこか置いてけぼりにされているような気がするのだ。だから仮に、ディズニー製作の3Dアトラクション映画として、この『アリス・イン・ワンダーランド』が初めて体験する「不思議の国のアリス」だったとしたら・・・。結構不親切な映画に感じられると思うのだ。

世界観に関して言えば、それはイマジネーションが見事に爆発した世界としてすごく印象的である。原作のイメージを踏襲しながら、ちょっと毒っぽい感じにアレンジされたアリスの世界は、まさにティム・バートンワールドだ。

ビジュアル面で楽しませてくれることは大事なのだが、今回3Dで鑑賞したことは判断ミスだったかもしれない。『アバター』の3D映像とは違って、それを存分に体感できる作りが前提としてなされていないのだ。3Dの価値を感じたシーンはたったの1シーンで、それはアリスが穴から不思議の国へ落ちて行く場面。『アバター』でも効果的に使われていた高低差を生かしたシーンだ。他のシーンに関しては、色彩美を楽しむという面では、メガネによるフィルターのかかった世界よりも、2Dではっきり見えた方が鮮やかだったかもしれない。

今回の大きくなったアリスが成長する物語は、不思議の国での赤の女王VS白の女王の対決を経てという形を取るが、この2大女王の勢力による対決というのが、明確な対立構図という点ではわかりやすいとはいえ、どうしても規模感が狭いように感じられた。その原因は「不思議の国」というもともとそこまで広さを感じさせない世界を、オリジナル設定で強引に壮大に見せようとしているからだろう。それでは、本当の意味でのバトルの迫力なんて出てくるわけがない。

ファンタジー映画では近年『ロード・オブ・ザ・リング』が圧倒的なスケール感を見せつけていることもあって、中途半端なスケール感ではもはや観客も驚かないと思うのだ。ましてや、スケールを出すための、作られたスケール感ではなおさらだ。

そして、すごくやっかいな存在だと思ったのがジョニー・デップ。イメージとしては確かに目立つことは間違いない。『チャーリーとチョコレート工場』で見せたような演技で、観客の期待に応えるヘンだけどなんだかんだカッコいいジョニー・デップをしっかり演じている。

なのだが、物語を進めるという意味では、別にジョニー・デップというくせ者俳優が演じる理由が見当たらない。台詞に個性があるわけでもなく、すごく真っ当なことを言っているキャラクターに思えたのだ。そうすると、映画としての成り立ちに疑問を感じてしまう。「アリスをデップとバートンでやる!」ということが重要なのであって、実際あとの部分はどうだっていいんでしょ?、と勘ぐってしまうのである。

その点、ジョニー・デップよりも必然性があるのはヘンテコな赤の女王を演じたヘレナ・ボナム・カーター。ブタを足置きにして満足そうな彼女は、すごく輝いていた。

僕は本当は毒々しいことをやっているのにタチの悪い方法で誤摩化そうとした『チャーリーとチョコレート工場』も好きではないが、ビジュアルしか毒々しくせずに逃げに回ったようなこの『アリス・イン・ワンダーランド』もあまり好きではない。結局バートンには、近作であれば『スウィーニー・トッド』のような、ジョニー・デップ目当てで観に来た女性観客を完全にドン引きさせるような作品を作ってほしいなと、僕は思ってしまうのです・・・。

(評価:★2)

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