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[コメント] 白いリボン(2009/独=オーストリア=仏=伊)

何も起こっていないようでじわじわと心に恐怖感を植え付けていく、とても怖い映画。静かなモノクロ映像が効果的で、その影響もあってかすでに古典映画のような出で立ちだ。(2011.01.09.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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ミヒャエル・ハネケ監督作を観るのは本作と同じくカンヌ映画祭で当時話題になった『ピアニスト』以来。ハネケは自らの体験の中に、「過剰の束縛」へのトラウマでも抱えているのでしょうか。『ピアニスト』における母親の束縛によって生まれた主人公の愛情表現の歪みも、本作で描かれる厳格な宗教的な束縛から生まれた子どもたちの歪みも、悲劇の根源として物語を大きく支配しているものに思える。

子どもたちの純潔の象徴として巻き付けられた「白いリボン」も、結果としては皮肉にも束縛の象徴としてのその印象を強く残している。

そして、劇中では村に数々の事件が起こり、その不穏な様子がもはや臨界点に到達しそうなタイミングで、第一次大戦の発端となるサラエボ事件の報が村に伝わる。印象として、不穏な空気の結果として、人類が引き起こすもっとも大きな惨劇である戦争へとつながっていたのでは、という解釈が浮かび上がってくるのだ。つまり、この小さな村に不可解な事件が連鎖的にふりかかってくるのは子どもたちに厳格に課される「束縛」に起因していて、その「束縛」の結果が戦争である、と。そして、その「束縛」によって悪戯を越えた歪んだ行動を行っている子どもたちは、彼らが大人になった20年後にはナチズムを牽引している存在になっている、という…。

牧師である父親の飼う小鳥を娘がハサミで殺すといった描写以外は、きわめて間接的な描写が多いが、その間接的な描写がじわじわと小さな村という共同体を蝕んでいっている感触を強める。事件の場面にしても、視覚的に際どいシーンは多くない。なのに、この静かなモノクロ映像がとてつもなく恐ろしく感じられる。

一見、大きな出来事は起こっていないように思えるのが、着実に恐怖が植え付けられていっている。思い返せば思い返すほど、この映画は怖い映画だ。

もちろん直接は関係ないのだが、ジャン・コクトーの『恐るべき子供たち』という古典のタイトルが頭に浮かびました…。

(評価:★4)

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