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[コメント] 鬼火(1963/仏)

堕落した主人公アランの心を赤裸々に表現し、彼の不幸さが逆に共感を呼び、心を揺さぶられた。心に響く映画。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 主人公、アランの心理が的確に伝わってきたので、かなり入り込んで見ることができた。堕落していく人間の感情変化を巧みに表現すると、映画自体にものすごく説得力を感じる。自殺を試みるまでの堕ちた人間の心情をリアルに描写している。ルイ・マルが友人の話など様々な要素を参考にしたと聞いたのだが、それだけに現実味があったと思う。自殺を試みる人間の気持ちはアランのように極端にマイナス思考なのだろう。もっとポジティブな気持ちを持てば良いのに、それができず、自分の中でネガティブさが先行してしまう。アランの発言を聞いていると、それが良くわかる。現実に向き合えず、逃げの手段としてアルコールに依存し、それが治ったにも関わらず前向きにはなれないでいる。心の病からは逃れられないでいる。青春時代を妙に懐旧し、そこに閉じこもったままの状態だ。最終的に堕ちるところまで堕ちて死を選ぶわけだが、劇中でも台詞にあったが、アランは本当に不幸な人間だと思った。その不幸さゆえに共感を呼び、心を揺さぶった。

 アランを演じたモーリス・ロネの演技も上に書いたような人物描写に大いに貢献している。彼の表情は繊細に感情を感じさせてくれるし、好青年そうに見えるところが、逆に悩みを深く感じさせてくれる。そしてエリック・サティのピアノ曲が映画の雰囲気にぴったりだ。タイミングもうまく音楽を挿入してくるので、グッと響くことが多い。さらにモノクロながら絵としてみても美しい。音楽と映像を合わせて見ても、一つの芸術作品のように美しい。

 自分は中盤で中だるみを感じてしまったのがマイナスだが、どの面から見ても完成度が高い作品と評価されるのは納得できる。"良い映画"と呼べるかはわからないが、内容には心を揺さぶられた。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)鵜 白 舞[*] uyo[*] くたー tredair

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