この映画の前評判はかなり高かった。評論家たちは軒並み絶賛していた。だが、いくら真摯に問いかける戦争映画だという評判を聞いても、不安は拭いきれなかった。その理由・・・製作がジェリー・ブラッカイマーであること。常に儲け主義のエンタメ作品のみを送り出してきた彼が戦争映画を手がければ、『パール・ハーバー』同様、アメリカ万歳映画になる可能性は否定しがたいと感じざるを得なかった。だが、この映画には、ハリウッド的エンタメ作品の要素もアメリカの意気高揚を思わせる部分も、ほとんど無かった。この映画にあったのは、ソマリア内戦を通した一連の米軍の軍事行動から、他国による軍事介入の必要性についての問いかけだった。

　この映画にストーリーと呼べる様な筋書きはほとんど皆無に等しい。また、主人公などの同情人物への感情移入すらする余地をほとんど与えていない。ましてや、映画の大部分を占める戦闘シーンを見る限り、第三者の視点からはどの兵士が誰だが判別するのすら難しい（ジョシュ・ハートネットやユアン・マクレガーの活躍を期待した方には、正直この映画は向かない気がする）。だが、その点を含め、この映画で描かれた市街戦はリアリティがあると思う。実際に戦場の真っ只中に立たされた場合、はっきりした状況を掴み取ることが出来るだろうか？恐らく無理だろう。誰かを主体に戦場の物語を進めてるのではなく、この映画は戦場の雰囲気をとにかくリアルに表現していたと思う。長引く戦闘の泥沼化した様子もしっかり感じられた。また、技術的な面から見ても戦場の感覚を細かな部分まで巧みに描いていたと思う。弾丸が地面に衝突した際に上がる砂埃や石ころに至るまで緻密に表現されていた。安易にスローモーションを投入するといったことも無い。撮影、編集も見事であるし、墜落の仕方も細かく表現されたブラックホークの墜落シーンも圧巻である。戦闘シーンで不満があるとすれば、少しスコアを多用しすぎた感があること。ハンス・ジマーのアフリカ民族調のスコアは良かったとは思うが、戦闘シーンでの多用はこの映画の場合は控えた方が賢明だろう。

　この映画で描かれているソマリア内戦への軍事加入。アイディード将軍を拉致するという、たった1時間で終わるはずの任務が雪だるま式に犠牲者が増える大きな被害を出した市街戦となった。この将軍拉致作戦はかなり早い段階に失敗に終わったのが目に見える。失敗がわかってからの市街戦は本当に意味の無い戦いだ。作戦本来の目的は失われ、無意味な戦いで無意味な犠牲者を増やしただけだ。アメリカの作戦が簡単に成功していれば、こういう事態は無かっただろうし、他国への軍事介入の正否を問われることも無かったかもしれない。だが、映画でも描かれていたが、兵士たちは重いからという理由で安全装置を着用しなかったりと、この作戦を軽く見ていた感があったと思う。安易な思いで介入した結果がこれだろう。世界一強い国と思っているアメリカは、当然軍隊も世界一強いと誇り、その軍隊を派遣すればどうにかなるだろうと思っているのかもしれない。だが、軍隊を派遣すれば円満にことが解決するなどということはないのであり、逆にこのソマリアのように被害者が出ることだってあるのだ。アメリカが軍隊を派遣する必要性のない場所に介入することで、意味も無く命を落とす人間が出てくるのだ。ある意味、戦場で戦う兵士たちはどちら側にせよ政治的判断から生まれた被害者と言えると思う。そんな中で、この映画のように最終的には仲間を守ることが目的になるのは自然なことかもしれない。エヴァーズマンが「誰もヒーローになろうなんて望んでない」と独白したが、確かにこの映画にはアメリカのために戦うといった兵士は登場しない。あの状況下で思ったことは、おそらく仲間と共に助かることなのだろう。

　だらだらと下手な文章を記してしまったのだが、自分に文才がないせいもあるが、この内容を文章にまとめるのは非常に難しい。だが、リドリー・スコットらから映画を通して問いかけられた真実にこれだけあれこれ考えている自分がいると、製作者としては満足なのではないだろうか？「答えを提供する映画ではなく、観客に問いかける映画だ」とリドリー・スコットは述べているのだから。