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[コメント] トラ トラ トラ!(1970/日=米)

陰謀説定着以前の映画としては、この上なく誠実な造りとなっている。アメリカ側を美化して描いているのは確かなのだが、飛んできた流れ弾に「俺が当たりたかった」と呟いたアメリカ軍将校の言葉が、アメリカの言葉ではなく、映画の言葉として響いた。
kiona

 米軍もパールハーバーにあっては将校も含め圧倒的多数の人間が何も知らされていなかったという説が、どうやら有力なようだ。“敵を騙すには、まず味方から”…ルーズベルトの計略は上層部の極秘事項であったはずだから、“まず欺かれた味方”はかの地だったというわけだ。

 飛んできた流れ弾に「俺が当たりたかった」と呟いたアメリカ軍将校の言葉は、状況を的確に推測できずに味方を死に追いやってしまうという、どこの、或いはいつの軍隊の現場指揮官にも伴う普遍的な苦悩であり、後悔なのだと思う。

 無論この言葉をあの人物に言わしめたのはこの映画だし、この映画は同時代と事後世代の狭間の微妙な感覚が創造したものであるということに気付かされる言葉でもある。

 ルーズベルトの問題は置いておくとしても、この映画は日本側の問題事項に関する重要な部分に触れている。それは陸軍と海軍の間の食い違いだ。陸軍が悪で海軍が善だったなどと二元論で語るべきではないが、ルーズベルトがアクトーなら日本の陸軍首脳部はバカヤローだった。

 ときに軍隊の暴走を防ぐのは、結局のところ優秀で良識を持った指揮官をおいて他に無い。そんな指揮官が一人でも多く現場にいてくれることを願うしかないとは、シビリアン・コントロールとは何なのか。劣悪な指揮官しかいない軍隊なら、そんなものは地上に存在しないほうがいいのだが、とはいえ軍隊は厳然としてそこにある。

 仮にルーズベルトが悪党なら、その陰謀に気付かなかったアメリカ国民にも罪はある。同じように軍隊の暴走に対し何も出来なかった日本国民にも罪はある。今現在も軍隊に相当する実力を持った自衛隊を軍隊と認めるかどうかばかりが問題とされるが、それがもうそこにある以上、最も問題なのは自衛隊が軍隊なのかどうか以前に、自衛隊が文民統制できる代物なのか。国民が文民統制のために、どれほど積極的な関心を寄せているかだ。

(評価:★4)

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